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瑕疵借り 松岡圭佑著

2018年11月23日

私は「催眠」「千里眼」シリーズで知って以来松岡圭佑の本が好きである。かなり多筆な著者なので、付いていくだけでもなかなか大変でしばらくご無沙汰していた。

ある日偶然アマゾンで見かけ、大家さん業にもちょっと興味があるし、息抜きにちょうどいいかなと思いポチッっとしたのがこの本との出会い。

この本はジャンル分けするならば、“賃貸ミステリー”。

瑕疵物件、いわゆる訳あり物件を背景に人間模様が交差し、最後には意外な結末を見せてくれる短編集となっている。

原発関連死、賃借人失踪、謎の自殺、家族の不審死…。

もしあなたが、ある日突然このようなことに巻き込まれたら、あなたはどうするだろうか。ただただ混乱し、事実を受け入れることすら困難なのではないだろうか。

登場人物たちもそうした状況に陥り、混乱したまま物件を訪れ、そして「瑕疵借り」の藤崎達也と出会う。

「瑕疵借り」とは、賃借人が亡くなったり事故事件が起きたりして瑕疵について説明義務が生じた物件にあえて住む人をいう、不動産業界の隠語。一定期間人が住めば、やがて瑕疵物件ではなくなるというのが賃貸の常識らしい。

瑕疵物件にしばらく住み、瑕疵物件でなくするのがこの本の主人公の仕事である。

訳あり物件に住み込む藤崎は不動産業者やオーナーたちの最後の頼みの綱。しかも彼は、類い稀なる嗅覚で賃借人の人生をあぶり出し、瑕疵の原因を突き止めてしまう。

ショックに打ちひしがれていた登場人物たちも、意外な事実を知ることで故人の想いを知り、次の一歩を踏み出すきっかけを得る。

 

死人に口なしと言うが、死んでしまった人から何も聞くことができないというのは当然過ぎるが意外な事実である。

どんなに身近な人でも想いを伝えることなく亡くなってしまったら、真の想いを知ることは難しい。

もし藤崎という瑕疵借りの存在がなかったら、登場人物たちは事実を知ることのないまま絶望に打ちのめされていただろう。

それが藤崎に明らかにされた事実によって救われ、未来に向かって進み出す。

瑕疵の事実を隠してしまう「瑕疵借り」の存在は本来はあるべきではないのかもしれない。

でも、こんな瑕疵借りなら、大家としても悪くないかもしれないと思わせる話である。

最後に告白しておこう。

この本を読むまで、私は「瑕疵」を「ひご」と読んでいた(汗)

正しくは「かし」。ちなみに、「ひご」は「庇護」である。

うまく読めなかった人はぜひこの本を読んでみよう!

Written by 藤村ローズ(オランダ)

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