先日、久々にフランスへ行く機会があった。パリ周辺を観光できるのは1日だけだったが、その中で私がリクエストしたのは、「ベルサイユ宮殿」だった。
ベルサイユ宮殿には以前にも行ったことがあったが、その時に見学できたのは宮殿と庭の一部だけだった。あまりに広大な敷地を堪能するには時間が足りなさすぎた。
今回もとりあえず宮殿見学は予約し、メインの目的は「小トリアノン(プチ・トリアノン)」とした。
トリアノンには大小の2つがあるが、小トリアノンはマリーアントワネットが多くの時間を過ごしたと言われる離宮だ。
まずは豪華絢爛な宮殿の見学からだったが、要予約の定員制となっているにも関わらず、内部はあまりにも混みすぎており、ほうほうのていで小トリアノンへたどり着いた。
ところが、驚くことに歴史的背景をかなり忘れており、あれほど楽しみにしていたにも関わらず、疲労も相まっていまいち楽しめなかったのだ。
「ベルばらを読み見返していたらもっと楽しめたはず」と自宅に戻ってきてから悔やみ、全巻を一気に読み返した。
『ベルサイユのばら』は、18世紀フランスの宮廷を舞台に、架空の女性士官オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェと、実在した王妃マリー・アントワネットを中心に展開する。
池田理代子が描くマリー・アントワネットは、単なる浪費家でも軽薄な王妃でもない。
幼い頃、オーストリアからフランスへ政略結婚で送り込まれた彼女は、異国の宮廷で孤独と緊張の中に置かれた少女だった。
豪奢な装いの裏で、求められる役割を必死に演じ続けたその姿は胸を打つ。小トリアノンは、そんな彼女にとって数少ない安らぎの場だった。
本作でも、この離宮はマリーの孤独や人間らしさを象徴する場所として描かれている。
もともとはルイ15世が愛人ポンパドゥール夫人のために建てた離宮を、ルイ16世がマリー・アントワネットに贈ったもので、洗練されてはいるが、ベルサイユ宮殿のような絢爛さはない。
だからこそ、マリーが「王妃ではない自分」に戻れた場所だといえる。もっとその想いを汲み取りながら、一つ一つの空間や家具、小物を愛でたかった。
今回の訪問で痛感したのは、背景をしっかり理解して歴史的場所を訪れると、表面だけでなく深くその場所を味わえるということ。
そうすると、その場に立った時に空気の重さや時代の矛盾、登場人物たちの感情をより立体的に感じ取れるようになる。
「ベルばらの中でオスカルが立っていたのはこの回廊か」「マリーが胸を高ならせたのはこの庭か」と、そういう想像力が旅を何倍にも豊かにしてくれるのだ。
ベルサイユはただの豪奢な宮殿ではない。政治の腐敗、民衆の怒り、個人の苦悩と希望、そのすべてが重なり合う場所だ。その複雑さを受け止める準備をしていくこと、それが真に楽しむコツだと痛感させられた。
そして、日本には素晴らしい漫画がたくさんあるので、漫画で知識を補える分には大いに活用した方がよいと断言したい。
知識だけでなく、笑いやロマンなどさまざま感情の豊かさをもたらしてくれるので、私にとって漫画は人生に欠かせないものの一つである。
Written by 藤村ローズ(オランダ)