ジャズには「ジャムセッション」なるものがあります。本格的な準備や、予め用意しておいた楽譜、アレンジにとらわれずに、ミュージシャン達が集まって即興的に演奏をすることです。
イギリスといえば、パブですよね。パブはいわゆる居酒屋のようなもので、人々のコミニュケーションの場になっています。数多く存在するパブでも、ジャズのジャムセッションが開かれているところがあります。
うちの近所のパブでも、毎週木曜日にジャムセッションが開催されており、そこに参加してみることにしました。1人で乗り込むのは気が引けたので、最初は近所のママ友を誘いました。
パブのWebサイトだけでは何時からやっているのかよく分からず、だいぶ早めにパブに着いてしまいました。「歌いたい」と告げ、しばらくビールを片手に他の方の演奏を聞きながら、ドキドキして待ちました。
1時間以上経過した後、私の名前が呼ばれました。歌いたい曲のコード譜を持参していたので、ピアニストの方とベースの方に渡しました。別に言わなくてもいいのに「初心者です」と言い訳してしまいました。
そして、その他の打ち合わせはほぼせずに、カウントを取り、歌い始めました。当日その場に居合わせた全然知らないミュージシャンの方とのセッション。全てが即興、その刹那を感じて歌いきる。
初心者すぎて出来はボロボロ。でもなんとか楽しく歌い切りました。歌った後、日本人が珍しかったのか、「近くに住んでるの?」「日本人なの?」といろいろ聞かれました。
歌詞を見ながらでしたがなんとか歌えた私は、修行のために毎週参加することを決めました。
かれこれ6回ほど参加していますが、毎回歌い始める前は「なんでこんなジャズの耳の肥えている人達の前で歌わないといけないのか」と逃げ出したい気持ち、絶望的な気分になります。もうやめたい。恥ずかしい。じゃあ何でやってるんだろうって感じですけど。
心理学用語で「コンフォートゾーン」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。「快適な空間」を意味し、不安やストレスがない安心できる場所のことです。いつも同じような行動をしていれば、安心して過ごすことができますが、成長はありません。
私にとって人前でジャズを披露という挑戦は、「えいっ」とコンフォートゾーンからジャンプした出来事でした。
コンフォートゾーンを抜け出してみて思ったこと。それは、「こんなに近くにあるのに知らないことが沢山ある!」ということです。
近所にあった素敵なパブ、レベルの高い演奏者が来て繰り広げられるジャムセッション、若者からおじいちゃんおばあちゃんまでいろんな年齢の方々が集まってジャズを囲んで集っている素敵な場があるということ!
イギリスではパブでよくナンパされるとか聞くのですが、もうアラフォーだし、そもそも夜にあんまり外に出かけないので、私はパブで地域の人と交流したことがありませんでした。
でも、この近所のパブで歌い始めて毎週顔を見かける方となんとなく話すようになったし、共通の「音楽」という話題があるので、何人かの方とは連絡先を交換したりしてやりとりをするようになりました。
こうやって地域の友達を作ればいいのか!と新しい発見でした。
やり切った自分に対しても、自信が生まれました。「完璧じゃないけど、何でもできるじゃないか。なかなか私やるじゃん!」と自分で自分を褒めました。
ふとしたことから踏み入れた「ジャズ」の世界。今は、自分が歌うだけでなくたくさんの方の演奏を聴き、とにかくジャズの世界に浸ってみようと思っています。
Written by 伊藤結子(イギリス)
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