クレフトシーヴァ(Kräftskiva)のテーブルから。主役は山盛りのザリガニです
スウェーデン人にとっての三大行事は、「クリスマス」と「復活祭」、そして「夏至祭」。では四番目は?
それは夏の「ザリガニパーティー」!スウェーデン語で「クレフトシーヴァ(Kräftskiva)」と言いますが、スウェーデンは世界有数のザリガニを愛する国なのです。
中世16世紀頃は、ザリガニは王侯貴族のみが入手できる高級食材でした。徐々に庶民も口にできるようになりますが、1994年までは厳格な禁漁期間も設定され、人々は解禁となる8月の第1水曜日を心待ちにしたそうです。
その名残から今でも8月には、各地でザリガニパーティーが開催されます。
パーティーを企画するレストランは告知と同時に予約が埋まる人気ぶり。当日の店内はポップなザリガニグッズに彩られ、ゲストも思い思いのグッズを身に付けて楽しみます。
ドレスアップした大人たちが、巨大なザリガニ付きサングラスをかけて食事を楽しむ姿は、ザリガニへの愛なしには実現しないでしょう。
ご家庭で召し上がりたい方にはスーパーで買える冷凍品が便利です。スウェーデン中で需要が高まるこの時期は、トルコやエジプト、中国など世界各国から届くザリガニが山積みに。
スウェーデン式に必須のディルの花を加えて茹でてあり、サイズや種類も豊富なので、手軽に楽しめます。
こだわりのレストランや専門店では、国内の有名湖産ザリガニも賞味可能。産地によって特徴は異なりますが、総じてまるっと立派なボディに見事な爪は、まるでオマール海老のよう。
上品な身に濃厚なみそ、王侯貴族が夢中になったのもうなずける別格ぶりです。なお、値段は冷凍品とは一桁異なるレベル。それでも食べたいのがスウェーデン人なのだとか。
クレフトシーヴァ用グッズ。右上は「月の男」のランタン。左下はお気に入りのザリガニ眼鏡。
クレフトシーヴァ(Kräftskiva)は「ザリガニパーティー」の意味ですが、普通のパーティーではありません。シーヴァとは「飲んで・食べて・陽気に楽しむ」パーティー。
過ぎゆく北欧の夏を締めくくる、シーヴァのトリセツをご紹介します。
とにかくザリガニ。紙皿にナプキン、テーブルクロス、食事中に被るコーン形の紙製ハットに至るまで、ザリガニ尽くし。
茹でたザリガニの赤は夏の色、炎の色。見た目や雰囲気からパワーを得ることも大切です。
窓辺に「月の男」と呼ばれるランタンを吊るし、テーブルやガーデンにたくさんのキャンドルを灯して明るさも演出。
テーブルには殻割りハサミやナイフの他、シュナップスグラスと呼ばれる蒸溜酒を飲むための三角グラスが欠かせません。乾杯時に歌う歌をセレクトしてお手製の歌詞カードを作り、ゲスト席にセットするホストも多くいます。
左:蒸留酒アクアヴィートとシュナップスグラス、右:マリアンヌおばさんのチーズパイ
クレフトシーヴァで必ず用意するのは、「ザリガニ」「チーズパイ」「蒸留酒」の3つ。
ザリガニは可食部分が少ないのでゲスト1人あたり殻付き1Kgからが目安。家族友人が集まれば膨大な量ですが、これをかつては自宅で茹でていたのですね。。
茹でるためのスープには、ビールや塩、砂糖、そしてハーブのディル、特にその形から「ディルの王冠」と呼ばれる花の部分を使用します。
お店で売られているザリガニにも必ずディルの花が使われるほど、スウェーデンにおいてディルのないザリガニはありえないのです。
北欧料理でお馴染みのディルには魚介類の臭みを消す効果があります。一度味わうとディル風味のないザリガニなんてもう考えられないと納得するばかり。
薬膳理論でも、ディルは胃腸を丈夫にし、消化を助けて食欲を増進する上、魚介の中毒も防ぐと言われるので、ザリガニとの相性はピッタリですね。
チーズパイには、スウェーデンが誇る高級チーズ・ヴェステルボッテンがたっぷり。我が家では、80歳を超えたマリアンヌおばさんのお手製パイを楽しみにしています。
飲み物は、アルコール度数40度以上の蒸留酒を用意します。「アクアヴィート(生命の水)」と呼ばれて親しまれるお酒は、おなかを温めて血行を良くし、消化を助け、冷えによる関節痛筋肉痛にも良いと言われます。
お酒に弱い私でも、北欧の重たい肉料理に少量を合わせると、胃もたれせずに食が進むという嬉しい存在です。
この3つが揃えば準備は完了です。ザリガニを食べる会なので凝ったお料理は必要なく、おつまみやドリンクを足せば十分。別腹のデザートには夏が旬のいちごが定番です。
1 2