リンゴンとブルーベリー、ストックホルム近郊の森にて。少し探すだけでたくさんの収穫が
北欧といえばベリー類を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ブルーベリー、ラズベリー、ボイセンベリー。イメージの通り、さまざまなベリーに彩られる北欧の夏。その中でもスウェーデンの人たちにとって特別なのがリンゴンです。
日本でコケモモ(苔桃)と呼ばれるリンゴンは、ブルーベリーと同じツツジ科スノキ属の植物で、スウェーデン中に広がる森に自生しています。
法律によって、誰でも森のベリーを楽しむ権利があるとされているこの国。季節がくると、待ちわびた人たちが森に入っていきます。
親族いわく、近年はそんな伝統を忘れてしまった人が多くて寂しい限りとのことですが、それでも私の周囲では多くの人がピクニックを兼ねてベリー摘みを楽しみます。
リンゴンとブルーベリーは同属だけあって同じエリアに実っていることも珍しくなく、一度に2種類が楽しめるのは嬉しい限り。
ただどちらも地面に近い位置に実り、上から見ると葉に隠れてわかりづらいのは予想外でした。中腰になって首を横に傾けながら足元の悪い森を進むのはなかなかの労働。
それでも30分も探せばボウルがいっぱいになるほどで大満足の収穫です。
酸味が強く、渋さもあるために生食には向かないとされるリンゴンですが、自分で摘んだものは特別。アイスクリームに添えるだけで世界一おいしいベリーだと感じてしまいます。
スウェーデン風ミートボールに添えた我が家の砂糖漬けリンゴン
これほど豊富に実るのなら、リンゴンもきっと北欧での薬膳に活用できるはず。そう思って調べると、先人の知恵に感動するばかりのリンゴン事情がわかりました。
リンゴンはベリーなのでジャムが定番かと思いきや(ジャムもあります)、スウェーデンで最も重要なリンゴン製品は「砂糖漬け」でした。
これは文字通りリンゴンを"砂糖に漬けただけ"のもので、有名なスウェーデン風ミートボールの付け合わせに用いられます。
さらには鹿やトナカイのシチューといったスウェーデン料理になくてはならない一品なのです。
その理由は実際に食べれば納得します。フレッシュな果実ならではの酸味が、味もカロリーも重めな料理に驚くほどマッチするのです。うん、ジャムじゃない。
諸般の事情から日本でのミートボールにはリンゴンジャムが添えられますが(ジャムも十分おいしいのですが)、北欧旅行の際にはぜひこの味をお試しください。
レストランであればおそらく100%の確率でジャムではなく砂糖漬けが提供されるはず。そしてジャムとの違いにきっと驚かれるはずです。
我が家にも欠かせない、リンゴンの砂糖漬け
とはいえ、なぜジャムではなく砂糖漬けが広まったのか。発酵食品でもない、水分の多いベリーを安全に保存できるのか。
疑問も多くありましたが、それこそが北欧の自然のなせる業であり、この地で暮らした先人による薬膳の知恵でした。
昔の北欧は作物の種類も少ないうえ、冬ともなれば新鮮な食材の入手が難しく、栄養失調も珍しいものではありませんでした。
そこで活躍したのがリンゴンのフレッシュさと栄養の両方を何ヶ月も保つことができる砂糖漬けだったのです。
ではなぜ砂糖漬けにするだけで保存が可能なのか。その秘密もリンゴン自体にありました。
リンゴンに含まれる成分の一つ、安息香酸のニックネームは「天然の防腐剤」。これこそがフレッシュなリンゴンを長期間保存し楽しめる最大の理由です。
冬に必要な栄養素だけでなく、自前の防腐剤まで併せ持つリンゴンが、冬の厳しい北欧に自生していることにも、また先人がその用い方を会得したことにも感動するばかり。
ヴァイキング時代にも活用されていた記録が残る、北欧のスーパーベリーです。
寒い季節の煮込み料理によく合います
自然哲学を基にする中医学では、赤色を持つ食物の多くを、同じ赤色である血に作用する働きを持つ薬膳素材として捉えます。
その赤色はアントシアニン(ポリフェノール)によるものですが、血管をしなやかに保ち、血液の巡りをスムーズにすることにも大いに役立ったと思われます。
また中医学において「痰湿(たんしつ)」と呼ばれる内臓脂肪やコレステロールの蓄積。
これらはすべて、本来なら体内を巡り、利用され、その後排出されるはずのものが、何らかの原因で滞り、どんよりと溜まってしまっているイメージです。
寒さや疲労、ストレス、加齢、偏った食生活など、代謝異常の原因はたくさんあります。
リンゴンによる「巡らせる力」のサポートは、血流だけでなく体全体の流れに作用して、余計なものを溜め込まない、動かせる、流せる、不要になったものを排出できる体を作る助けにもなり、結果的に若々しさを保つことにもつながります。
リンゴンが若返りに役立つと言われるのも納得です。
スウェーデンの人が愛するリンゴン。機会があればぜひお試しくださいね。
なおリンゴンの砂糖漬けは、材料さえ入手できれば簡単に作れます。ご興味のある方、レシピをご希望の方は下記リンクからご覧ください
Yakuzen Apothecary & Kitchen のサイト
Written by 高見節佳(デンマーク)