ディナーとおしゃべりを楽しんだマッセリア
最後に、現地の人との話でとても面白いと思ったことを紹介したいと思います。
この産休中の滞在期間に結婚5周年を迎えたので、「マッセリア」と呼ばれるホテル施設の中にあるレストランにディナーに行きました。
「マッセリア(Masseria)」とは、南イタリア・プーリア州特有の昔の石造りの建物を生かしたホテル施設です。
16−18世紀に農家として建てられた石造りの建物を囲む広い農地は、長いこと使われず放置されていたのですが、約20年前にプーリア州都のバーリに住むビジネスマンによって、ベッドアンドブレックファーストに転換したのが始まりだそう。
その後、一気にホテル化が進み、今ではかわいくてロマンチックな自然の中の宿として親しまれているそうです。
こちらのマッセリアでレストラン責任者として働く、ヴィンチェンソさんとの会話が本当に興味深かったです。
彼は南イタリアのサレント地方の出身ですが、20歳ぐらいの時に「もっと広い世界が見たい」と北イタリアのミラノへ移住したのち、家族ができたため落ち着いた生活を求めて、再びサレント地方に戻って来たそうです。
彼はサレント地方の観光地としてのポテンシャル、美しさ、素晴らしさを誇りに思いつつ、そこで働く人々の「遅れている」ゆったりしたメンタリティやサービスレベルの低さにフラストレーションを感じているとのことでした。
特に北側に比べて南側は街のPRやマーケティングが下手で、アトラクションが少ないことを嘆いていました。
確かに遠方からの観光客にとって、南の街のレッチェやガッリーポリ、オートラントなどの知名度は比較的に低いように感じます。
ポリニャーノ・アルマーレの絶景ビーチ
例えば、イギリスの有名な女優が最近サレントに夏休みで来たそうですが、あるマッセリアに泊まり、日中はずっとマッセリアのプールで過ごし、食事もマッセリア内で済ませて、ほぼ一歩もマッセリアから出ずにバカンスを終了したのだとか。
「もし彼女が近くのガッリーポリの街を歩いてレストランに行ったとしたら、きっととても良いアピールになるのに、サレント州の街はそのような誘致をするための努力を欠いている」と言っていました。
また、サレント地方の観光産業の人々は4月のイースターぐらいから仕事を始めて、9月半ばのスクールホリデー終了まで働きますが、その後はホテルもお店もすべて閉めてしまいます。
実際1年のうち7カ月弱働くと1年分のお金が稼げてしまうので、それ以上頑張って働こうというモチベーションがないと言います。
冬でもいろいろやろうと思えばイベントを開催して観光を盛り上げられるのに、何もしないことを残念に思っているそう。
プーリア半島の最南端のレウリカという町は、一番最初に新年の日の出が見えるということで12月31日に多くの人が訪れるそうですが、「来たところで、何も開いていない」状況なんだそうです。
「ここで大きなお祭りやイベントを開催すれば、ものすごいビジネスチャンスになるのに!」と言っていました。
実際、私たちが美しいビーチで有名なトッレデロルソの街を歩いていても、9月半ばの時点ですでに多くのホテル施設が完全に閉まっています。
まだお客さんが来るであろうのに、9月になった瞬間に急にビジネスが縮小して静かになり、びっくりしました。こういうメンタリティや慣習が、背景にあるのですね。
フランス人の主人に言わせると、南仏ではこういうことは絶対にないとのこと。
カンヌでは10月でもホテルが頑張って営業しているし、ピークシーズンを過ぎたら施設のプールでパーティイベントを開くなどして客引きに積極的とのことでした。
モノポリの小径
ヴィンチェンソさんと同じ意見は、実は何度か耳にしていました。ビーチで隣に座った女性がミラノ出身でサレントに移住してきた方で「サービスやメンタリティが遅れている、発展途上」と言っていましたし、サレントでピッツェリアを開いた北イタリア出身の女性からも同様の意見を聞きました。
私はレストランでも店員さんも皆優しく、サービスが良いと思っていたので「サービスが悪い、メンタリティが遅れている」というのは、一体どういうことなんだろうと思っていましたが、ヴィンチェンソさんの話を聞いて、彼女らが何を言いたかったのかがなんとなく分かってきました。
私たちがプーリア旅行が好きな理由の一つに、イタリア人観光客がほとんどで家族連れが多く、治安が良いことが挙げられます。
街を歩いていても安全で夜も静かです。その一面も、裏を返せば外からのアクセスが悪いからだと言えます。
ヴィンチェンソさんは国際便の不足がサレントの名が観光客の間に広がらない理由の一つと話していました。
空港や州を上げて、例えば格安航空会社とパートナーを組んでフライトのプロモーションをするなどしたら良いのにとのこと。
また、公共交通機関が全然発達していないために、車がないと何もできません。
レンタカーを借りて運転できる人がいない限り、ほぼ楽しく旅行することができないのも弱みの一つと指摘していました。
観光客の私たちからすると、このドメスティック感や穴場感がとても魅力的なのですが、現地の観光産業でもっとビジネスを盛り上げたい立場からしたら、残念な点の一つになってしまうのですね。
現在の治安の良さや過ごしやすさで言うと、単に国際的に有名な観光地になることが良いことばかりではないと思うのですが。
このように旅先で地元でビジネスをやっている色々な人の話を聞くのは本当に面白いです。また、学んだイタリア語でこういうお話ができるのも何だか嬉しいと思いました。
Written by Towami(ドイツ)
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