前回のコラムに引き続き、今回も映画製作の現場で日本語を使う仕事についてご紹介します。
まずは「カルチャーコンサルタント」という仕事です。
最近の映画業界ではこのポジションの人材を雇うことが主流になってきており、私も今年、あるNetflixの作品でこのポジションに就きました。
この仕事は、映像内で他国や異文化に関する描写がなされる際に、「その表現が正しくされているか、無礼や不快をもたらさないか」などについて、その文化の専門家が検証、およびアドバイスをするものです。
一昔前のハリウッド映画では、場面設定が日本であるにも関わらず、女優さんの着物の着付けが違っていたり、セットに飾られている掛け軸の文字が奇妙だったりと、違和感を覚えるシーンが多かったと思います。
画面に映るのはほんの一瞬でも、その違和感が気になってストーリーが頭に入ってこないことはありませんでしたか?
昨今はグローバル化が進み、異文化やマイノリティ文化にも関心や理解を深めるべきだという動きがありますので、どんなに小さな描写のミスでも映画の評価が台無しになってしまったり、特定の誰かを傷付けてしまうことがあります。
それを避けるために、日本の描写が入るシーンで、慎重に隅々までチェックするのが私の仕事です。
とはいえ、私より日本文化に詳しいクルーがたくさんいるので、逆にこんなに日本文化を勉強してくれてありがたいと思う方が多いです。
このようにアウトサイダーだからこそ異文化に敬意を払い、限りなく本質に近づけた映画を残そうというトレンドには個人的に大賛成です。
次は、英語の台詞を日本語の字幕にする仕事です。
英語ではシンプルな台詞でも、日本語に直す時にはキャラクターの年齢や性別、育ちなどの要素によってカスタマイズする必要があります。
日本のアニメをこちらの実写版に直す場合は、特に神経を使います。すでに確立している個々のキャラクターのイメージを壊したくないからです。
世界中にいるそのアニメのコアなファンの期待を裏切らず、しっくりくる言い回しを考えなければいけないので、アニメのオリジナル版の勉強も必須になります。
字幕にはさまざまなルールがありますが、一番大切なのは「文字ルール」です。
人が一瞬で読める文字数には限りがありますので、オーディエンスに一行で台詞の内容を伝えるにはどうすればいいのか、一つの台詞に何日も悩むこともあります。
一度頭から終わりまで映画を見ると、また違う言い回しのアイデアが出るので、自分である程度区切りを付けないとエンドレスに作業をしてしまいます。
映画の一部としてずっと残りますので、一言一句丁寧に訳すようにしています。
チーム内に日本人は私一人ですので、こうした仕事をする時にはプルーフリーディングや違うアイデアを模索するためにももう一人日本語話者がいたらいいなと常に思います。
心細い時もたくさんあります。それでも自分を信じて雇ってくれたプロダクションチームに貢献し、一緒に良い作品を世に送り出せた時の達成感が、きっとこの仕事を続けられている理由なのだと思います。
作品がヒットしてくれたら喜びは何倍にもなりますしね!
いかがでしたでしょうか?今回は、映画製作現場で活躍する「カルチャーコンサルタント」と字幕翻訳の役割についてご紹介しました。
今後も翻訳に関する仕事の裏側をお伝えしていきたいと考えていますので、次回もお楽しみに。
Written by ファンフェーン庸子