北欧の春はゆっくりと訪れます。私が育った日本の関西地方と比べると1ヶ月ほど遅い印象ですが、それでも3月ともなれば太陽の輝きも強くなってきます。
気温はまだ0度前後の日も多いものの、植物たちは春の気を受けて確実に成長しています。その成長を楽しめるのが野草を使った料理です。
季節の野草やキノコを収穫していただくのもデンマークの伝統の一つです。
行政手続きのIT化など先進のイメージが強くある国ですが、自然も豊かですし、人々がその自然を愛し共に生きているということが生活スタイルを見聞きしていてもよくわかります。
そのデンマークでの春野草の代表格とも言えるのが、ラムソンやワイルドガーリックと呼ばれる植物です。
ヨーロッパの中では特にドイツでの人気が高く、「ベアラオホ(熊ネギ)」と呼ばれて愛されているそうです。
デンマーク語の表記は「ramsløg」、デンマーク語の発音をカタカナで表すのは極めて困難なので割愛します。
日本語ではクマニラ、クマネギ、クマニンニクなどの名前が使われるそうですが、いずれにしてもネギの仲間ですね。
興味を持ってから数年、ようやく体験する機会に恵まれました。
コペンハーゲン近郊の森、奥に見える緑色が群生する ramsløg。まだ気温も低いため小さめの葉
自然を愛するとはいえ、当然ながらその度合いは人によって異なります。私がお付き合いのあるデンマーク人たちは野草までは手を出さないとのこと。
また、私1人で初めての野草採集というのも不安があります。特にramsløgは毒性が強い鈴蘭と間違えて採集することも多いと聞くため、なおさら慎重になります。
でも言ってみるものです。お世話になっている方との雑談中に野草への興味をお話したところ、その方のご友人が連れて行ってくださることになりました。
こんな時に頼りになるのはやはり中国の方です。中医学と薬膳が生まれた国なので、今回お会いした方々も旬の食材を使う意義や活用法をしっかりと受け継いでいて、感心するばかりです。
待ち合わせ場所の森の入口からも、奥にある緑の茂みが見えていました。この茂みはすべて ramsløgだそうで一気に気持ちが上がります。
訪れたのはまだ気温も低い3月半ばだったため、ほとんどの葉は収穫には小さすぎました。所々にちょうど良い大きさの群れがあったので、そのエリアを中心に収穫スタート。
毒草と間違えないようによく見て採り、臭いも確かめます。クマニラと言われるだけあって明らかなニラ臭を持っているので、きちんと確認さえすれば間違うことはないようです。
収穫後は、トップ画像のように1枚ずつ丁寧に洗って確認します。これも中国の方から教えていただいた方法です。
春の味覚 ramsløg を使ったジェノベーゼ風パスタ
デンマークに住む中国の方たちには、 ramsløgを使った餃子やエビ卵炒めなどが人気だそうです。ぜひ試したいと思いつつ、今回はまずジェノベーゼ風パスタを作ることにしました。
ジェノベーゼには通常バジルを使いますが、ニラや青じそのアレンジも好きなので ramsløgもきっと合うに違いないと思っていたら、ヨーロッパでは定番の利用法とのことでした。
炒った松の実やオリーブオイルなどと共にミキサーにかけてペースト状にしたら、茹でたパスタと和えるだけです。
ramsløgは4月以降になると大きく成長し、花が咲いて香りも強くなるそうですが、今の時期は本当に「若葉」といった感じです。
春のフレッシュな生命をいただくことで、自分の体も目覚めて活動を始めるような嬉しい感覚を覚えます。
摘み取った葉は2日ほどでしんなりしてしまうので、2〜3週間は楽しめるように醤油漬けやキムチも作り置きにしました。
自然の恵みを無理なく楽しみながら体に取り入れる。「生きている」「生きること」を強く感じる早春の一日でした。
(上)醤油漬け(左下)キムチ風和え物(右下)オーブンで焼いたエビ入りオムレツ
Written by 高見節佳(デンマーク)