
皆さんは「ピアサポート」という言葉を聞いたことがありますか?
ピア(Peer)は「同じ立場の人、仲間」という意味です。
つまり、ピアサポートとは、精神的な不調や障害、病気などを「自分も経験したことがある人」が、その経験を活かして仲間を支える仕組みのことです。
医療職や専門職とは異なる立場で寄り添うことで、安心感や共感を得やすいのが特徴です。
今回は、シドニーの精神障害者向けグループホームでサポートワーカー(支援スタッフ)として働く私が、オーストラリアにおけるピアサポートについてご紹介します。

私が働くメンタルヘルスサポート団体でも、ピアサポートワーカー(ピア支援スタッフ)は欠かせない存在です。
例えば、Zoomを使って利用者さんと話したり、本部の運営スタッフに「こういう時は利用者さんが不安になりやすい」といった提案を行い、支援の質を高める役割も担っています。
ある時、落ち込んでいた利用者さんに対して、ピアサポートワーカーが「私も同じような時期があったよ」と自分の体験を話しました。
すると、利用者さんの表情が穏やかになったのです。その瞬間、専門職だけでは届きにくい、経験者だからこそ提供できる寄り添いの力を実感しました。
ピアサポートワーカーはキャリアの一つとしてもしっかり認知されており、求人サイトには多くの募集が掲載されています。給与や待遇も、私たちサポートワーカーと同等です。

一方、日本では「ピアサポート」という言葉自体は広まりつつあるものの、制度や雇用としてはまだ限定的です。
医療や福祉の現場で「体験スタッフ」として関わる例はありますが、常勤職員として採用されるケースは少なく、ボランティア的な立場にとどまることも多いのが現状です。
「経験者が支援に関わることの意味」は理解されつつあるものの、キャリアとして認知されるまでには、もう少し時間がかかりそうです。
ただ、近年は行政やNPOが積極的に導入を模索しており、海外の取り組みを参考にした研修やパイロット事業も始まっています。
こうした流れが広がれば、日本でもピアサポートが制度として根付く可能性は十分にあるでしょう。

ピアサポートの強みは「経験者だからこそ語れる言葉」にあります。
困難を経験した人が、その経験を活かして他者を支えることで、「共感に基づいた支援」が生まれます。
これは、専門職と体験者それぞれの強みが融合して初めて実現できる支援の形です。
社会全体で「助け合う仕組み」を育てていくことで、病気や困難を経験しても孤立せず、誰もが安心して暮らせる未来につながるはずです。
参照:行政情報ポータル
Written by 野林薫(オーストラリア)