
最近は、Netflixの学園ドラマの脚本の一部を翻訳しています。
この作品は、日本漫画『賭ケグルイ』を題材にした北米の実写版で、学園を舞台にしながら、生徒たちがギャンブルによって地位や名誉を争うという独特の世界観を持つ作品です。
日本で育った人であれば自然に理解できる上下関係や学校文化も、海外の視聴者にはなかなかうまく伝わりません。
そのため、どこまで説明し、どこまで原作の雰囲気を残すのかという判断が必要です。
今回、特に気にしたのは、日本特有の先輩・後輩文化の表現でした。
学園を舞台にした作品では、登場人物同士の関係性が物語の重要な要素になります。
しかし、英語圏には、日本のように先輩・後輩という明確な上下関係を日常的に表す文化がありません。そのため、単純に言葉を置き換えるだけでは、人物同士の距離感や力関係が伝わらなくなってしまいます。
実際の翻訳作業では、脚本家や監督とも相談しながら表現を調整しました。
この人物は相手を尊敬しているのか、それとも恐れているのか。親しみを感じているのか、それとも上下関係を意識しているのか。
そうした細かなニュアンスを一つ一つ確認しながら、海外の観客にも理解できる形を探っていきました。

また、ギャンブル作品ならではの駆け引きも翻訳者を悩ませます。
勝負の場面では、一言のセリフがキャラクターの自信や恐怖、あるいは相手への挑発を表現しています。直訳すれば意味は通じても、その緊張感が失われてしまうことがあります。
例えば、英語の短いセリフ一つ取っても、日本語では複数の表現が考えられます。強気なのか、冷静なのか、皮肉を込めているのかによって選ぶ言葉は変わります。
翻訳者は常に「この人物なら何と言うだろう」と考えながら作業を進めます。
さらに、脚本には実際に俳優が口にした時の自然さも必要だという要素が加わります。
本として読む文章と、声に出して演じるセリフは別物で、文字では格好良く見えても、実際に発すると不自然に聞こえることがあります。そのため、翻訳後も何度も読み返し、耳で聞いた時の響きを確認します。
※原作:河本ほむら、作画:尚村透による日本の漫画。
映画やドラマは多くの人の力によって作られます。脚本家が物語を生み出し、監督が映像化し、俳優が命を吹き込みます。
そして、翻訳者はその作品を別の言語圏の観客へ届ける橋渡し役です。翻訳者の名前が目立つことはあまりありません。
しかし、観客が自然に物語へ入り込み、言葉の壁を感じることなく作品を楽しめたなら、それは翻訳がうまく機能した証拠なのかもしれません。
脚本の翻訳とは、言葉を訳す仕事であると同時に、感情や文化を届ける仕事なのだと改めて気を引き締めながらやっていきたいと思います。
私が一部翻訳したドラマ『BET Season 1』、ぜひチェックしてみてください!
Written by ファンフェーン庸子(カナダ)