
「ペンギン約5,000羽にワクチンを打つ」
このニュースを見て、私は思わず二度見してしまいました。
3年前、私はビクトリア州のフィリップ島を訪れ、フェアリーペンギン(Little Penguin)に会ってきました。
夕暮れの海から、一羽、また一羽、よちよち歩きで浜辺に戻ってくる姿は、今でも印象に残っています。
そのペンギンたちが今、鳥インフルエンザ「H5」の大流行による絶滅の危機にさらされています。
ビクトリア州では、フィリップ島とメルボルンのセントキルダにいる5,000羽以上のフェアリーペンギンを対象に、ワクチン接種を進めています。
野生の鳥にこれほど大規模にワクチン接種するのは、世界初の取り組みだそうです。

H5鳥インフルエンザは、世界各地で野鳥に大きな被害を与えている感染症です。オーストラリアでも現在、野鳥の間で感染が広がっています。
当初、フィリップ島のペンギンからは感染が確認されていませんでしたが、8月15日、ついに島のフェアリーペンギンからH5ウイルスが検出され、1羽が死亡したというニュースが飛び込んできました。
フェアリーペンギンは群れで暮らし、同じ場所に集まる習性があるため、感染が広がれば大きな被害につながる可能性があります。
そこでオーストラリアは、「感染が拡大してから対処する」のではなく、「今のうちに守る」という方法を選んだのです。
ただし、野生動物へのワクチン接種は簡単ではありません。
1羽につき2回の接種が必要で、そのたびに捕獲しなければならず、小さなペンギンを一羽ずつ捕まえてワクチンを打ち、また自然に戻すという、気の遠くなるような作業なのです。

今回の取り組みで興味深いのは、単に「かわいいペンギンを守ろう」では終わらないことです。
オーストラリアでは、H5の影響を受けやすい在来種や絶滅が心配される鳥たちも、ワクチン接種の優先対象とされています。
フィリップ島のフェアリーペンギンは、オーストラリアの観光を代表する存在です。
しかし、私が3年前に見たあの小さなペンギンたちは、観光資源である前に、ここで暮らす野生動物です。
野生動物や自然と共存してこそ、オーストラリアのキャラが生きてきます。
危機に瀕する動物たちを守ることは、オーストラリアの国土を守ることにつながるのだと思います。

3年前、私はフィリップ島の海から戻ってくるフェアリーペンギンたちを、ただ「かわいいな」と眺めていました。
まさか3年後、そのペンギンたちが世界的にも前例のない規模のワクチン接種を受けることになるとは、夢にも思いませんでした。
あの日、私の前をよちよち歩いていったフェアリーペンギンたち。
どうかこれからも、フィリップ島の海から元気に帰ってきてほしい。
ワクチン、頑張ってね!
Written by 野林薫(オーストラリア)