撮影:Luigi Zomparelli
事務局:泰子さんは舞台以外にも、テレビのお仕事もされているんですよね。
泰子:はい、ひょんなきっかけでイタリアのバラエティクイズ番組に出題者の一人として出演することになったんです。いろんなジャンルの音楽を私が日本語に変えて歌って、それを聞いたクイズ回答者が答えるというものです。
それまではクラシック一辺倒だったんですけど、ロックやポップミュージックにも触れて新鮮です。イタリアで人気があるものを知ったり知識が広がりますしね。
オペラとは全くかけ離れた番組ですから、「何やってんの?」ってオペラ界の関係者から言われることもありますけど、やりがいのあることは何でもやりたいなと思っています。
事務局:オペラのお仕事以外にもいろんな仕事をされてきたそうですね。
泰子:そうですよ~、オペラ歌手としてすぐには食べられるようにならなかったですからね。最初のころはピザ屋の給仕や観光客らのためのディナーショーなどで生計を立てていました。
オペラの勉強を始めた頃は、「大好きな劇場の空気を吸えるならチケット販売や案内係、お掃除係だって構わない、とにかく劇場で仕事をしたい」と思っていました。それはのちにも変わらず、仕事はなんでも一生懸命やるという活力には恵まれていました。
そうすると「こんな仕事があるよ」って紹介してくれる人がいたり、「これを手伝ってくれないか」という新しい出会いやご縁をいただいたりで、徐々に活動できる場が広がっていきました。
ソロで音楽の仕事ができるようになるまでは数年かかって、それまでは足踏み状態で焦ったり、辛かったりしたこともあったのですが、ただその間一生懸命やってきた仕事や様々な体験はすべて今に生かされていますね。
事務局:泰子さんがひたむきに取り組んできたことがすべて身になっているんですね。そんな姿を見て声をかけた方達は、泰子さんの長所や魅力を感じていたからこそだと思いますが、泰子さんはご自身のどんなところが強みだと思っていらっしゃいますか?
泰子:ん~、まぁ、辛いことがあっても食欲がなくなった経験は1回しかないです(笑)
事務局:それは強い!
泰子:一人ぼっちになった時もどんなつらい時も音楽に助けてもらいました。それは小さい頃からずっとそうです。音楽が一番信用できるというか、裏切らないというか。
人生って愛が一番重要なテーマだと思っていますが、愛って様々な種類がありますよね。私の音楽への愛っていうのは純粋というか絶対的なものなんですよね。仏陀が悟りの境地を得るかのような、煩悩とかまじりっけのない状態だと感じます。
音楽さえあれば何事もちっぽけに見えちゃうんです。音楽の存在が崇高な喜びだと感じられる心が私の強みになるのかな。自分の原点のような。
事務局:音楽が神様みたいなんですね~。
泰子:やはり数百年続く音楽って意味があるし、我々を離れた不可思議な力を感じます。そう感じる瞬間が舞台の稽古中にあったりします。以前は分からなかった音楽の解釈が、他の経験を通した成長によってハッと分かったり、心に余裕を持って練習に臨めたり。