撮影:Shu Tomioka
まさかロンドンに住んで、イギリス人に日本の太鼓を教わることになるとは思いませんでした。
リズ(Liz Walters)さんと初めて出会ったのは2019年5月。
毎月一度、私の家の近所の教会でジャパンコミュニティカフェというイベントが開催されていて、ちょうどこの月のコミュニティカフェでは、なんとイギリスの方が和太鼓ワークショップを提供してくださるというではありませんか。
なぜイギリス人の方が和太鼓を?!何事も経験してみるのがモットーである私は迷わず参加を決めました。
ワークショップの定員は、確か20名程度だったと思いますが、蓋を開けてみると大人気!
定員超えで沢山の方が集まっていました。日本人だけでなく、国籍問わずいろんな方が参加していました。日本の太鼓への関心の高さが伺われます。
リズさんが太鼓を打つ際の姿勢やリズムをわかりやすく説明したのち、参加者の出番です。拍子に合わせて張り切って太鼓を叩きます。
和太鼓は日本人の私にとって見慣れた楽器ではありますが、真剣に叩く機会はなく、新鮮な体験でした。
無心に太鼓を叩いていると、不思議なことが起こりました。瞑想状態というのでしょうか?!同じリズムを繰り返し打ち続けていることによって、集中しつつも心は無心に、静かになっていきます。
心の静寂を感じつつも、周囲の人とリズムを合わせているので周りとも不思議な一体感があるのです。とにかく気持ちがいい!まさに「太鼓セラピー」とも呼ぶべき体験でした。衝撃でした。
私は毎日瞑想をしているのですが、太鼓を叩くというこの方法だと集中しやすく、瞑想状態に入りやすいことがわかりました。なぜ人は太鼓を叩くのか。その理由が少しわかった気がします。
和太鼓を打つその瞬間に全身全霊を込める
リズさんは、ロンドンで和太鼓の第一人者として活動されています。
1996年、日本から来た和太鼓の演奏を初めて見た時、和太鼓の大きさ、雷鳴が轟いたかのような強烈な音に心が震えたといいます。
その後、福井出身「響太鼓」代表の車屋正昭さんを師と仰ぎます。
福井の伝統的な奏法を大切にしながらも、現代風のアレンジを取り入れたり、世界との交流も大切にされている「sensei」です。
車屋氏はヨーロッパのみならず、アメリカ・カナダ・オーストラリアなど、10以上の太鼓チームの指導をされています。
「和太鼓の魅力は深すぎて一言で語ることはできません」とリズさんは言います。
太鼓とは個人の演奏ではなく、グループ・チームの演奏です。チームでの横の繋がりを感じながらも、個としても、それまで経験したことのない自分自身を信じる感覚を見つけることなのだそうです。
「太鼓を通して、身体的にも、精神的にも鍛えられました。年齢、国籍、性別、文化的背景は関係なくひとつになれるのが太鼓です。そして日本の文化である『お互いを尊敬する精神』や、『礼儀』『覚悟』も日本の太鼓の重要な要素です。
私は和太鼓を打つその瞬間に全身全霊を込めています。私はそんな太鼓が大好きです。太鼓の活動を通して、多くのユニークで美しい心のある人々と出会いました。そんな人たちと仕事ができることを光栄に思っています」
リズさんは、2011年東日本大震災のすぐ後、日本の震災復興支援のためにイベントを開催されました。
「Kizuna Japan」と名付けられたそのイベントでは和太鼓のみならず、日本舞踊、尺八、琴の演奏など和の文化が結集しました。£5000あまりの義捐金が集まったといいます。
また、2011年5月、ロンドンのウエストミンスター寺院で東日本大震災追悼式典での演奏をされました。
2019年ラグビーワールドカップジャパンの際には、ラグビー・イングランド代表のホームスタジアムでありラグビーの聖地でもある”Twickenham Stadium ”がロンドンのパブリックビューイング会場となり、82000人の観客の前で演奏。
2021年3月、私も参加させていただいた東日本大震災への祈りの礼拝でも、伝統的な特別な鎮魂のリズムを奏でておられました。
日本のために惜しみない愛をのせて和太鼓を叩くリズさん。重い太鼓を抱えて遠くの会場までやってきて、無償で演奏してくださることは簡単なことではないと思います。
遠い日本のためにイギリスから力を尽くしてくださっている方がいる、リズさんの和太鼓を通して日英の絆が深まっていると思うと感動します。
リズさんは、イタリアやギリシャの和太鼓チームの設立にも尽力され、現在はBethnal Greenのスタジオで和太鼓クラスを開講している他、学校や各種公共機関でのワークショップ、演奏など幅広く活躍されています。
ただ和太鼓を叩くだけではなく、和太鼓を通して日本の伝統文化の精神を学んだり、自分の内面と深く繋がるためのTaiko Therapyという活動も数年前からスタートされています。
和太鼓を通して、イギリス人のリズさんの話を通して、日本の伝統芸能の奥深さと素晴らしさを感じることができました。
URL:www.tamashii.co.uk
連絡先:info@tamamashii.co.uk
太鼓の通常クラスに関する情報はこちらから。トライアルクラスのお申し込みもできます。
Written by 伊藤結子(イギリス)