シドニーにあるAsylum Seekers Centre(以下、ASC)で、1年3ヶ月ほどボランティア活動をしたことがある。
ASCは、オーストラリアに入国した後にプロテクションビザを申請し、そのビザが認可されるのを待っている人達(オーストラリアへの亡命を希望している人達)を支援するNPO団体だ。
運営資金は企業や一般の人々、一部州政府からの寄付でまかなわれており、衣類や食料品、日用品、使わなくなったノートパソコンやスマートフォンなどもASCに寄付されていた。
たくさんのダンボール箱に入った食料が、数人の高校生達と先生によって運ばれて来ることもあった。(注:オーストラリア政府からのAsylum Seekers への支援はない)
ASCではフリーの英語レッスンやパソコンのレッスンの提供し、就労が許可されているクライアントにはセンターに協賛している企業などに人材斡旋をしたりもしている。
経済的に窮地に陥っているクライアントには、他のチャリティー団体と連携して、緊急の住処や経済支援を行い、ホームレスになることを食い止める支援も行っている。
たくさんの人々によって運営されているこのセンターは、たくさんの優しさと笑顔に出会える場所でもあった。
ASCでは数名の正規雇用職員の他に、たくさんのボランティアが働いていた。
ボランティアの中には、不定期で働く医師、弁護士、ケースワーカー、キッチンスタッフ、センター受付スタッフ、缶詰やビスケット、塩、砂糖などの食料配給手続きを行う、フードバンクスタッフなどがいた。
その中で、私はセンターサポートボランティアという役割についていた。
オーストラリアのプロテクションビザを申請したAsylum seekers(亡命希望者)が、ACSのクライアントとして支援を受けるには、ACSの審査に通らなければならない。
私の役目は、ACSの審査を通過して晴れてクライアントとなったAsylum seekers達に、ウェルカムツアーを行うこと。センターが提供するサービスの説明し、センター内を案内する役目だった。
まず第一のステップは、彼らに電話をかけてウエルカムツアーに参加してもらう日を決めること。
電話をかける前に、パソコンでクライアントの情報を確認するのも大事なポイントだった。
彼らの出身国、家族構成、英語のスキルレベル、オーストラリアに入国した日、何か障害を抱えているのかなど、たとえ短い会話のためであろうと、彼らをほんの少しでも知っておくことで、事務的になりがちな会話を少し変える事ができるような気がした。
この電話での会話が、私と新規クライアントのファーストコンタクトとなる。このあと、ASCの門をくぐることになる彼らに、「歓迎ムード」を感じてもらえるよう、声のトーンなども意識して会話に臨んだ。
英語が話せないクライアントには、まず電話での通訳サービスに連絡を取り、それから通訳者を交えてクライアント、私、通訳者の3人で電話で日程を打ち合わせる。
通訳サービスが必要ないクライアントと話す時は、クライアントのほぼ100%の人達が英語はSecond languageなので、「私自身もNon native English speaker 」という強みを活かし、ゆっくりと簡単な単語を使って話すように心がけた。
ASCでは、たくさんの笑顔とたくさんの「ありがとう」に恵まれた。どんな状況におかれていても、人に「ありがとう」と伝える事ができる人達がどれほどの輝きを放つのかを知らされた。
彼らのその「強さ」に触れたくて飛び込んだこのボランティア活動。私の期待を遥かに超えたたくさんの学びを与えてくれた時間だった。
私達人間は基本的に、感謝することに怠惰になってしまう生き物なんだと思う。感謝することに意識を向けている彼らの存在、たくさんの「ありがとう」の温かみにただ感謝する私だった。
Written by 野林薫(オーストラリア)