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冥界の門が開く「鬼月」とは?中華圏の風習と日本のお盆の違い

2025年9月10日
周さと子 (マカオ)

街角に現れる「鬼月」の風景とその歴史

旧暦7月になると、東アジアでは先祖の霊を迎え供養する伝統的な季節がやってきます。

私の住むマカオでは、「道端で蝋燭を燃やしご飯や果物を霊に捧げる」光景を目にします。

日本では「お盆」として知られる盂蘭盆ですが、実は中国・台湾・香港・マカオでは「冥界の門が開き全ての霊がこの世にやってくる」とされています。

今回は、中華圏で「鬼月」または「中元節」とも呼ばれるこの時期の風習を通じて、人々の霊に対する概念や日本との慣習の違いを紹介します。ちなみに、中国語で「鬼」は幽霊のことです。

中国の盂蘭盆は、日本と同じく仏教の「盂蘭盆経」に由来します。釈迦の弟子・目連が餓鬼道に堕ちた母を救うため、僧侶に供物を布施した故事が起源です。

これが中国に伝来し、道教の「三元思想」と結びつきました。三元とは、旧暦1月15日「上元」(天官の誕生日)、7月15日「中元」(地官の誕生日)、10月15日「下元」(水官の誕生日)を指します。

「天官」「地官」「水官」は、道教における非常に重要な神格で、宇宙を三つの要素(天・地・水)に分け、それぞれを司る神様です。

天官は福を招く神様、地官は罪を赦す神様、水官は災難を解き救う神様として知られています。

中元節は”冥界の神様・地官が罪を赦す日”とされ、旧暦の7月は先祖供養と贖罪の儀式が行われるようになったのです。

 

「鬼月」に人々が行うことって?地域ごとの風習

中国本土では、祖先の霊を迎えるため、家の門口で紙銭(あの世で使えるお金)を焼く「焼紙」が行われます。

紙で作った家財道具やスマホまで焼く光景は、あの世でも暮らしを豊かにしてほしいという願いの表れです。

また、川灯りを流して霊を送り出す「放河灯」は、水害で亡くなった無縁仏を供養する意味も込められています。

香港では、各所で潮州人コミュニティを中心に「盂蘭勝会」という祭事が行われます。広場などの大きめの場所に祭壇を設け、僧侶が読経する中、供物を捧げて無縁仏の供養を行います。

竹と紙で作られた巨大な「大士王(日本で言うところの閻魔大王)」が祀られるところもあります。

同様に、供養の目的で仮設劇場で広東オペラが上演されます。この世を彷徨う無縁仏(霊)たちも芝居を観に来ると考えられており、彼らを手厚くもてなして供養し、災いが起きないように鎮めるためです。

マカオでは、中国本土と香港の風習が混ざり合っていると感じます。寺院では大規模な祭祀が行われる一方、夜には路上で線香を焚き果物や饅頭を供えます。

この期間は、「夜に洗濯物を干す、手招き、供物に触れること、拾い物を持ち帰ること」などがタブーとされています。

意味は怖がらせるためではなく、「迷える霊に敬意を払い、トラブルを避ける」ための生活マナーです。

 

日本のお盆との違いと共通点

日本の「お盆」も仏教の盂蘭盆に由来しますが、「祖先を家へ迎え、送り、家族で弔う」ことが中心です。

迎え火・送り火、盆提灯、墓参り、地域の盆踊りといった家と地域共同体の行事が中心で、無縁の霊を大規模に慰撫する性格は比較的薄いと言えるでしょう。

一方、中国・台湾・香港・マカオでは、祖先とともに無縁仏や餓鬼も含めた”全ての霊”への施しが等しく重視されます。

路上で紙銭を焼いて無縁仏を供養し、彼らが現世の人に悪さをしないようにするのです。道教の「陰陽調和」の思想に基づく、社会的な安心を願う気持ちが色濃く反映されています。

現代では、環境問題から紙銭焼きを禁止する地域も出てきました。代わりにオンラインで仮想紙銭を焼くサービス(!)も出現し、伝統の形も変わりつつあります。

日本では「帰省」が強調されるお盆ですが、中華圏では「祭祀」そのものが中心です。

とはいえ、どちらにも通じるのは、先祖への感謝と目に見えない世界への畏敬の念ではないでしょうか。

暑い夏の夜、路頭で揺れる炎は遠い昔から続く、霊との共生の物語。あなたの故郷の「夏の風物詩」は何ですか?

Written by 周さと子(マカオ)

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