前回のコラムで反響をいただいたので、スウェーデン人とお酒についてもう少し。
北国スウェーデンではブドウ栽培が適さないこともあり、長い間、穀物ビールや世界最古のお酒といわれる蜂蜜酒ミード(Mjöd)が主流でした。
これらはヴァイキングの時代(800〜1000年頃)にも飲まれていたものです。
ジャガイモを主原料とした蒸留酒「アクアヴィット(Aquavit)」の語源は、ラテン語の「aqua vitae=生命の水」。まさにスウェーデン人にとって、お酒はなくてはならないものですね。
新たな法が制定されると、抜け道を探したり発見が生まれたり、「お酒を飲みたい国民」vs「規制したい政府」の追いかけっこが繰り返されてきました。その歴史はとても興味深いものに思えます。
そんなスウェーデンで、最初にお酒が禁止されるようになったのは1494年。
日本では室町時代にあたるこの時期、ストックホルムの統治者が「お酒の醸造と売買」を禁止したことで、実質的に飲酒そのものが禁止となりました。
その理由は、ホントかウソか、「兵士が酔っ払うから」!
シラフで元気に戦わないと命に関わるよね、という深い事情だそうですが、、そんなに飲んでいたのでしょうか。。
お酒の購入は手帳で管理(Systembolaget historiaより)
前述のアクアヴィットの普及にも法律が関係しています。1746年、飢饉など深刻な食糧問題を背景に、ジャガイモを原料としたお酒の製造方法が確立されます。
まだ食用として一般的ではなかったジャガイモを活用しつつ、お酒も作るという画期的な方法は、穀類を使った酒類製造が禁止されていた時代だからこその発見と言えるかもしれませんね。
この発見を成し遂げたのは、スウェーデン王立科学協会初の女性メンバーでもあった伯爵夫人のエヴァ(Eva Ekeblad née de la Gardie)。彼女の名前は今でも多くの人に知られています。
その後、20世紀に入った1919年、政府は配給手帳によってお酒の購入者と量を管理し始めます。手帳を持つ人だけが毎月決まった量のお酒を買えるというシステムです。
この手帳は入手条件がとても厳しく、若者や無職の人は論外、女性も対象外で、実質的には裕福な男性しかお酒を買えないというものでした。
規制の理由は暴力などの犯罪行為というよりも、過度の飲酒による健康被害や家庭の困窮を防ぐことにあったようですが、不安定な社会情勢でお酒に依存してしまう人が後を絶たず、結果的に違法なお酒の取引が増え、質の悪い違法酒で体調を崩す人も溢れました。
その結果、法律が大きく動くのが1955年。現在に至る、システムボラーゲットの制定です。
スウェーデン人である夫の解釈によると、「わかった、そんなに飲みたいのなら手帳制度はやめて誰でも買えるようにしようじゃないか。でもやっぱり飲み過ぎは体に良くないし、国庫の補充にも協力してね」というシステム。
高い酒税を設定して買い過ぎを防ぎつつ(健康管理)、税収アップ(財源補充)という、win-winを狙ったのだとか。
美味しくお酒が飲める幸せ
紆余曲折を経て現在のシステムとなり、安定してお酒を入手できるスウェーデン。でも人々のお酒にかける熱意は変わらないようです。
コロナ禍でもロックダウンは実施されていないものの、感染者の増加に伴い規制も増加する中で、政府は飲食店に対して午後8時以降のアルコール提供/販売を禁止しました。
その対策として人気になったのが、ホテルの部屋を予約してのパーティー。お酒は持ち込むだけでなくルームサービスで注文します。
つまり「”飲食店ではない”ホテルのルームサービス」は24時間OK、規制の対象外。旅行者の激減で苦境にあえいでいたホテルの売上貢献になっているのだとか。
お酒に対する思い入れも、ここまでくると感動するばかり。
情熱的だなぁと感心していると、「いや、やっぱり依存かも。根暗な国民だからね」と返されました。。
真っ暗な冬を過ぎ、陽も長くなってきたヨーロッパ。明るくお酒を飲みたいですね。
参考サイト:Systembolaget historia
Written by 高見節佳(デンマーク)