南半球は、日本がジメジメする頃に冬を迎えます。ブラジルは、暦の上では6月20日より冬。思えばこの秋は丸々自粛生活でした。
とはいえ、サンパウロ州は日中27〜8℃はあり、日本の冬のイメージとはちょっと違います。ブラジルにも「冬を満喫できる」所があり、例年この時期は大賑わいです。
その名もカンポスドジョルダン(Campos do Jordão)、サンパウロ州東部に位置するブラジル屈指の高原リゾートです。
サンパウロ市内からは約200キロ、車で3時間弱ほど、国内一の標高1628メートルにある街で、1968年以来日本の軽井沢と姉妹都市になっています。その上「ブラジルのスイス」と言われるブランド力の高い街です。
実際、年に数日は朝夕の気温が一桁台まで下がるので、バカンスを楽しむなら雰囲気満点の冬がオススメ!
街の入口にスイス風のとんがり屋根のゲートがあり、入って行くとロッジやヒュッテ風の建物が並び、まるでヨーロッパのような景色です。
街の中心地ヴィラカピパリにはたくさんの飲食店が軒を連ねます。クラシック音楽国際フェスティバルもあり、ショッピング・マーケットに冬季限定のブランドが出店したりします。
中でもバーデンバーデン(Baden Baden)というクラフトビールの店では、昼は試飲も出来る見学ツアーが行われ、夜は大きなビアホールとして人気を博しています。あえて店内に座らず、大きなストーブで暖を取る屋外席を選びます。
何しろ「冬を満喫する」のがテーマですから、ブラジル人もモコモコのコートに手袋、帽子に耳あてと完全武装。特に女性は、ご自慢のブーツや毛皮で、冬のファッションを楽しみます。ちなみに、何度も言いますが、そこまで寒くはないです。
豊富なメニューの中からソーセージやキャベツの酢漬けを選び、ビールと共に舌鼓を打てば、アレ?ここはどこ?ドイツ?スイスじゃなかった?
周囲の店を見回せば、なぜかエッフェル塔の模型とか、赤いチェックのテーブルクロスにパスタ、スイスとは言ったものの、ざっくりヨーロッパを表現しているような。でも、あれ?メープル印の国旗もたなびいて、設定もかなり曖昧。
偽物感は否めませんが、街全体がアミューズメントパークのようで、夜遅くなっても歩ける治安の良さに、ブラジルに居ることを忘れます。
それでもスイスらしさを醸し出すためか、街のあちこちにチーズフォンデュの店があります。
これもブラジル式焼肉セットが付いており、パンもお肉もおかわり自由、食べ放題です。
トドメは、チョコレートフォンデュのデザート、フルーツがお代わり自由なのは言うまでもありません。
温かい飲物も、あちこちで売られています。ホットワイン、ホットチョコレート、その漂う匂いだけでもほろ酔い気分になります。
人気のアクティビティは、像の丘(morro do elefante)という、さらに高台に登れるリフトです。片道5分で頂上の標高1,800mの場所に到着し、そこから箱庭のような美しい街の景色を一望できます。
なんか、平和だなぁ〜でも、リフトの下には網が張ってあるわけでもなく、道路の上を横切る時はちょっとヒヤッとします。
他にも木目調の内装が見事な蒸気機関車が走り、車窓から眺める街並みに、とあるテレビ番組を思い出させます。
窓辺に花を飾り、素朴ながらも小綺麗で、確かにヨーロッパのどこかの街だと言っても信じてしまいそうです。また、観光用循環バスもあり、豊かな自然に囲まれた街全体を把握出来ます。
豪華な別荘、賑わう繁華街、山間に滝があったり、馬で移動できる道やテニスコート、なるほど、あえてここで寒さを楽しむって、なんて贅沢なんでしょう。ブラジル富裕層の暮らしが垣間見られる景色です。
しかし、今年はコロナ騒ぎ。130万人の感染者を出し、未だ自粛要請(quarentena)が解除されないサンパウロ 州では、富裕層といえども冬の楽しみを味わえないでしょう。
ハイシーズンなのに予約が入らないホテルも「キャンセル料不要」をうたって何とか顧客を獲得をしようとしています。
ふと、この豊かな街で働いていた人達は、この冬をどのように過ごすのか気になりました。
ブラジルの観光セクターの機会損失額は3~5月の3カ月間で約900億レアル(約1兆8,396億円、1レアル=約20.44円)となり、3月から6月末までには、72万7,800人の雇用が失われる見込みとも言われています。(JETRO調べ)
カンポスドジョルダンの労働者も例外ではありません。
経営コンサルタントをしているブラジル人の知人曰く、「この国はA・B・C・D の格差社会になっていて、AとBの人達は自粛出来る人達、当たり前の様に自宅にWi-fiがあって食べるものもある。が、国民の半分近くに当たるC・Dの人達は、毎日生きるために働かざるを得ないので、感染リスクも高い。」と言います。
それを思うと、寒くない冬をスイスに見立てた街で過ごす特別な人達がいる事は、それだけで衝撃的です。
実は、サンパウロ州知事も冬のレジデンス(Palácio Boa Vista )をここ、カンポスドジョルダンに構えています。
例年冬季はここで執務するそうですが、今年はどうでしょうか?
街では、冬の風物詩「毛布や衣服を寄付する箱」が置かれ始めました。いつにも増してこの冬の寒さは、ブラジルの貧富の差を広げている気がします。
移民が多いことから、その文化や習慣を守るために、自分達のルーツを模した街をあちこちに作っているブラジル。その一つ、昨年訪問したカンポスドジョルダンの事を思い出す時、今年は何故か胸の奥がチクっとします。
Written by 岩井真理(ブラジル)