
マカオの市街地にはたくさんの貴金属店が並びます。
マカオのホテルのロビーに、金塊が78個も埋め込まれていた。
そう聞くと、多くの人が「本当に?」と疑いたくなるかもしれない。
しかもその金塊は、約20年間展示されたのちに売却され、価格はおよそ10倍にまで跳ね上がっていたという。まるで映画のような話だが、これは現実に起きた出来事だ。
このニュースを知ったとき、私は驚くとともに少し後悔した。「あの金塊、ちゃんと写真に収めておけばよかった!」と。
以前の職場がこのホテルのすぐ近くにあり、ロビーを通るたびに、床に埋め込まれた金塊を「すごいなぁ」と眺めていた。
日本から来た友人やお客さんを、わざわざ連れて行って見せることもあったほどだ。
日本であれば、金の延べ棒は厳重に金庫に保管されるものだろう。
それがここでは、堂々とロビーに“展示”されている。しかも床に埋め込まれているため、その上を歩くことすらできる。
今思えば、「金を踏む」という体験は、なかなかできるものではない。
あの光景は、マカオという街の価値観を象徴していたのかもしれない。

金色の建物が連なるカジノホテル
マカオの街を歩くと、まず目に飛び込んでくるのは圧倒的な「金色」の存在感だ。
マカオのシンボル的建物になっているグランドリスボアホテルや、ギャラクシーのカジノホテル群は、外観からして金、金、金。潔いほどに金色で統一されている。
そしてその価値観は、観光向けの演出にとどまらない。
街中には金を販売する貴金属店が並び、ローカルの人々も中国人観光客も、ごく自然に金を購入している。
結婚祝いや出産祝いなどの贈答用はもちろんのこと、自分用や家族用として金の商品を選ぶのも一般的だ。
アクセサリーだけでなく、有名キャラクターとコラボしたコイン型やチャーム型(ちいかわやクレヨンしんちゃんとのコラボも!)といったカジュアルな商品も豊富で、比較的手に取りやすい価格帯のものも多い。
実際に、友人は「子どもへの投資」として、キャラクターコインの新作を見かけるたびに少しずつ買い足しているという。なんという気軽さ!
こうした話を聞くと、金を購入することへの心理的ハードルの低さに驚かされる。
ここまでくると、もはや「やりすぎ」ではなく、「文化」だと感じる。
マカオでは、金は単なる装飾ではない。富や繁栄、運気の象徴であり、「見せること」に意味がある。
日本では、資産は見えないところに置くのが一般的だが、ここでは逆だ。持っていることは、隠すのではなく、表現するものなのである。

中国で最も有名かつ最大手の貴金属店「周大福」 週末の店内は人、人、人!
中国人にとって金は、「最も信頼できる資産」の一つだ。その背景には、長い歴史の中での通貨不安や社会の変化がある。
制度や紙幣は変わるが、金そのものの価値は変わらない。だからこそ、「現物」としての金に対する信頼が非常に強いのだ。
実は、私自身にも「金」にまつわるちょっとしたエピソードがある。
マカオ人の夫と結婚する際、義母からこう聞かれた。「結婚祝いは、金がいい?それともハイブランドの時計やバッグがいい?」
私は迷うことなく、ハイブランドを選んだ。当時の私にとって、それは仕事をする上での自信にもつながる“実用的な価値”を持っていたからだ。
もちろん、その選択を後悔しているわけではない。あの時計やバッグは、フルタイムで働く私の強い味方だった。
ただ、もしあのとき、金を選んでいたとしたら?
2005年11月当時:金1g =1900円前後。2026年3月現在:金1g =26,000円前後。資産価値は13.7倍!
もし過去の自分にアドバイスできるとしたら、こう言うかもしれない。「金を選びなさい。ハイブランドは自分で買いなさい」と。……とはいえ、これも今だから言えることなのだけれど。

ニュースになったグランドエンペラーホテルのロビー。金塊が埋め込まれていた箇所は金色タイルに置き換えられていました。
今回の金塊売却ニュースで改めて思ったのは、マカオや中国では「お金は動かして増やすもの」という考え方が自然にあるんだなということ。
もともとホテルの象徴として豪華に展示されていた金塊も、カジノが閉まれば役目を終える。それに加えて、値上がりしている今が売り時と判断されたのだろう。
「踏む体験」ができたあの金塊は、最初から「価値を生み出す資産」として存在していたのだ。
金塊の展示も、宝石店で街の人が気軽に金を買うのも、どれも「お金や価値を楽しむ文化」の一部のようだ。
日本だとお金は「貯めるもの」という感覚が強い。どちらが正しいかではなく、ただ、その違いを知ることで、自分の中の当たり前が少し揺らぐことになるかもしれない。
マカオの金は、ただの資産じゃなく、街の色であり文化であり、人々の価値観そのもの。
マカオに来られた際は、歩きながらちょっとだけ、中国人の金に対する感覚を味わってみてほしい。
Written by 周さと子(マカオ)