アガサ・クリスティーといえば、多くの世界的なベストセラーを生み出してきたイギリス出身の推理小説家であり、誰もが認める「ミステリーの女王」である。
彼女は30歳でデビューして85歳で亡くなるまで、実に長編小説66作、中短編を156作、戯曲15作、それだけでは飽き足らず、別名義でも発表している。
有名な作品はいくつか読んだことがあるが改めて読み返してみたい、他作品も読んでみたいがたくさんありすぎてどの作品から読み始めて分からないという方もいるのではないだろうか。私はまさにそういうタイプ。
そんな方におすすめの本書は、ミステリー評論家の霜月蒼氏が実際に全ての作品を読み、100作品について一挙解説している。
『アクロイド殺し』『オリエント急行の殺人』『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』など、映像化されている超名作しか読んだことのないという読者に向けて、それ以外の作品はどういうふうに面白いのか、そういう視点で書いたそうだ。
エルキュール・ポアロシリーズ、ミス・マープルシリーズ、トミー&タペンスシリーズはBBCでもドラマ化されているが、これらの有名シリーズの長編・短編の他作品、ノンシリーズのもの、自伝まで、結構詳しいあらすじと解説が書かれている。
でも、ネタバレしないようにちゃんと配慮してくれているのがミステリーファンにとってまた嬉しい。
トミーとタペンスはアガサ・クリスティも気に入っていた主人公のようで、クリスティの最後に執筆した作品は、トミー&タペンスシリーズの最終作品『運命の裏木戸』となっている。
私のお気に入りがどれかと聞かれたら、やっぱりエルキュール・ポアロだ。特徴ある髭のおじさん探偵。ちょっと性格に癖がある気もするがやっぱり憎めない。
イギリス紳士たちの中で活躍するベルギー人でフランス語混じりのポアロ。19世紀イギリスのちょっとレトロで優雅な雰囲気を味わえるところもいい。
ポアロシリーズの最も有名な作品は、『ABC殺人事件』だろう。
ポアロのもとに「ABC」と名乗る人物から犯行予告らしき手紙が届き、予告通りにイニシャルがAA、BBの女性が殺害されていく。次々に事件が起こるので、ポアロシリーズの中でもスピード感のある作品。
しかし、クリスティ自身は自伝の中で「初めの3、4作で彼を見捨て、もっと若い誰かで再出発すべきであった」と述べている。それでも長く書き続けたのは、やはりポアロが魅力的なキャラクターだったことを証明していると思う。
クリスティーの作品はとにかく数が多すぎて、うっかりしていたらどの作品だったか分からなくなってしまう私。
そんな人にもネタバレなしのあらすじと、楽しみ方まで教えてくれる親切設計のこの本はとても有難い存在だ。
最近読書の時間が十分に取れなくて少しずつ読み進めていたら、この攻略本だけでも1ヶ月以上かかってしまった。アガサ・クリスティー全集を読破できる日はいつかやって来るのだろうか…。
Written by 藤村ローズ(オランダ)