今回ご紹介する「Maybe You Should Talk to Someone」は、アメリカで2019年に出版されベストセラーになったノンフィクション。
残念ながら現時点で和訳版が出版されていませんが、先取りしてお伝えします。各所でベストセラーを獲得し、TVドラマ化も決定したとっても興味深い作品なので、日本語版が出る可能性は十分あると思ってます。
著者はプロの心理療法士でありライターでもある、ロリ・ゴッドリーブ。
元々はハリウッドでプロダクション・アシスタントとしてキャリアをスタートし、日本でも人気を博したテレビドラマ「ER」のために医療現場を取材していたそう。ちなみに、当時わたしは完全攻略ガイドブックなるものを購入するくらいハマっていました。
その体験がきっかけで医療に関心を持ち、30代でキャリア・チェンジ。心理療法士としてのカウンセリング・セッションで出会ったクライアントたちと、舞台裏で同時進行していた彼女自身の人生クライシスの体験がセキララに語られています。
彼女の人生最悪の時期を綴ったと言っても過言ではない内容ですが、全く湿っぽくなくウィットに富んでいて、夢中になって読み進めてしまいました。
ある日、ロリのオフィスにやって来た新規クライアントのジョン。彼は「自分の周りはバカばっかりだ!」と同僚や家族、ありとあらゆる人の不平不満を延々と彼女にぶつけます。
自分に話す隙を与えず、一方的にまくし立てる彼に辛抱強く接するロリですが、実は彼女は結婚の約束をしていたボーイフレンドから別れ話を切り出されたばかり。
ショックで一睡もできないまま、やっとの思いで幼い息子を世話し、学校に送り届けた後でのセッションは肉体的にも精神的にも辛いものでした。
愚痴を聞いていた彼女の友人は「Maybe you should talk to someone.(誰か専門家に話したほうがいいんじゃない)」と忠告します。
ロリは失恋の痛手と混乱を乗り越えるために、同僚から自分と面識の無いセラピストを紹介してもらい、ほんの短期間のつもりで会いに行きます。
でもセッションが始まった途端、嗚咽がこみ上げ、彼女は泣き崩れました。数か月に渡るセッションを通して、ロリは自分が本当にショックを受けていたのは失恋だけではないことに気付き、向き合っていくことになります。
この本を読んでまず、セラピーを行う側である心理療法士も、れっきとした人間だということが包み隠さず語られていたことに好感を持ちました。
プロであっても、プロだからこそセラピーは必須。彼女は自分のセラピストの前で大泣きした後でさえ、果敢に自分のオフィスに戻ってクライアントにセラピーを行っているって切実ですよね。
それから、彼女は40代を前にどうしても子供が欲しいという想いから、精子バンクを利用してシングルマザーで息子さんを授かっているんですね。
私自身、離婚してアラフォーで卵子凍結保存をした身ということもあり、彼女の精子バンクとのやりとりから出産に至るまでのエピソードも考えさせられました。
お金を払って心理療法士に会うとなると「あなたは専門家なんだから、こちらの問題を解決できて当然でしょ」と料金を支払っていることで問題を必ず解決してもらえるような気持ちに一度はなると思うんです。
本著では心理療法士であるロリ本人が、自分のセラピストから「君は僕から何を求めているんだい?」「僕は君の過去を変えることはできないよ」など言われて、セラピーの本質に立ち戻るんですね。
心理療法士とクライアントが協力してこそ効果が上がるのがセラピー。そして、自分の人生ストーリーを編集できるのは紛れもない自分自身。そこから人生は変わっていく。
わたしもライフコーチングを行う者として、忘れちゃならないことです。彼女のTEDトークが日本語字幕付きで公開されているので、興味がある方は是非チェックしてみてください。次回もお楽しみに!
Written by 野田リエ(アメリカ)