現在四十代半ばを過ぎた私でも、もうすでに梅干しが食卓の定番であった世代ではなくなっています。
とはいえ、梅干しというものが象徴する故郷の香りには、いつもじんとするものです。特に、故国を遠く離れた土地においては。
初夏になり、日本に住む友人の梅仕事の様子がSNSに流れてくると、なんとなくそわそわとした気持ちになるのは、不思議なものです。
私は自分のライフワークとして取り組んでいる仕事があり、それは世界各地に移民したお母さんたちへのインタビューなのですが、様々な理由で生まれた土地を遠く離れて暮らす彼女たちが、遠い異国の地の台所で、見知らぬ材料と格闘しながら受け継いだ、自分のルーツの土地の伝統の料理のレシピを記録しています。
その契機となったのは、ずいぶん昔に切り取った古い新聞記事の一節で、20世紀初頭にブラジルに移民した日系移民のご婦人たちが生んだ「花梅」のお話でした。
故郷を遠く離れて、また、現在のように一時帰国なども叶わなかった時代。お母さんたちの多くは、昔から親しんだあの懐かしい味を思い、当地で手に入るローゼルというハイビスカスの仲間の赤い花の実を、塩漬けにして梅干しに見立てたのです。
その赤い花の実は、梅干しと言うにはあまりにも鮮やかで美しく、けれどもそれは懐かしいしょっぱくて酸っぱいあの味がした、と記事は語っていました。
現在では、海外で暮らしていると特に、ご飯と梅干し、梅干しおにぎり、のように梅干し自体を食べたいという欲求を、そんなに感じることが少ないかもしれませんが、梅の味というのは、特に夏場は便利なものです。
果肉を叩いて、胡瓜などの野菜を和えてもいいし、少し溶き伸ばして、サラダのドレッシングや肉料理のたれにしたり、と日本料理以外にも応用がききます。さっぱりとして、きりっとした塩味は、夏の汗をかく身体にぴったり。
どこか懐かしい、日本の夏休みの食卓を彷彿とするような、そんな味の料理は、異国の材料を使っていても、私達の郷愁を癒やしてくれるでしょう。
なので私は世界中どこにいても、梅干しもどきのレシピを考案して、夏の初めにせっせと準備をすることにしています。
今回は、世界各地で私が作ってきたレシピを3つご紹介しようと思います。
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