アゼルバイジャンの朝ごはんは盛りだくさん
アゼルバイジャンでは、朝食はとても重要で、充実した食事を楽しむもの。だから私がアゼルバイジャンの地方を旅行すると、その楽しみの一つは宿の朝食だったりする。
バクー市内各地のレストランやカフェでも、それぞれ自慢の朝食メニューがあり工夫を凝らしていて、たいていお昼くらいまでは朝食メニューを注文できることから、友人たちともしばしば、「今日は朝食を一緒にとりましょう」と集まることがある。
まず欠かせないのは、たっぷりと注がれるお茶。
緑茶やハーブティーも好まれるこの国でも、朝はこっくりと濃くいれた紅茶であることが多い。このお茶を何杯もおかわりしながら、ゆっくりと朝ごはんが始まる。
次に欠かせないのが、こんもりとバスケットに積まれたかまど焼きのパン(タンディル・チョレキ)。
人気の朝食レストランとなると、レストランの脇に土の大きなかまどを設えて焼き立てを供していて、何枚も何枚も見事な手さばきで焼かれてゆくさまを眺めるのは、心楽しいもの。
上:かまど焼きのタンディル・チョレキ、下:各種白いチーズ
パンのお供は、白い軍団、名前も味わいもちょっとずつ違うのに、見た目はみんなほぼ真っ白の乳製品たち。
白いチーズは、牛の乳や羊の乳で作られて、ヨーグルトのようであったり、きゅっと酸味であったり、きりっとしょっぱかったりとさまざま。クリーミーな食感のものも、もろもろとした食感のものもいろいろ。
他には、ショールという羊の柔らかいクリームのようなチーズや、発酵させたクリームのようなガイマクなど、地域や季節によっていろいろな種類がテーブルに並ぶも、異邦人の私には正直あまり区別がつかない。
ハードタイプのチーズで、田舎に行くと時々お目にかかるごちそうは、羊の皮の袋に入れて発酵させたもの。
匂いは確かに独特だけれど、特別な旨味がある。長期保存のために、きりっと塩っぱいことが多いけれど、ねっとりとクリーミーで旨味の強いものに当たると、朝食というよりはワインにも合いそうという心持ちがしてくる。
ワインと言えば、ヨーロッパなどの他国ではもっぱらおつまみとしてサーブされることが多いオリーブも、このあたりでは朝食のお供だ。
黒、緑、それぞれ摘み取ったときの果実の熟成度合いによっても、風味が変わって、ほんのり苦味があったり、ぴりっとした芳香があったり、フレッシュな爽やかなものもあれば、本当にさまざま。好みのものが見つかると、本当にうれしい。
野菜は意外と少ない。朝食にサラダ、というイメージが定着しているのは、実は日本だけではないかと世界各地を歩いていて思う、余談だけれども。
きゅうりとトマトが少し添えられる程度。他には、ソーセージやハムなどの加工肉も加わることもあるけれど、ここはイスラム教の国なので、鶏や七面鳥、牛肉を使ったものがメインになる。
それに蜂蜜(季節ごとに変わる村の蜂蜜は特においしい)、ムラッべと呼ばれる果物の砂糖煮、それに自家製のバターなどを添えて、どんどんパンをたくさん食べる。
よくタンディル屋でパンを買いに並んでいると、アゼルバイジャン人のご家族連れが楽しそうに巨大なかまど焼きパンを何枚も何枚も買っていゆくのに遭遇するけれど、ここの人たちは本当にこのパンが好きだ。
これに温かな卵料理が添えられるのだけれど、いちばん人気のメニュー、卵とトマトのスクランブルエッグは、トルコにも同じような料理がある。
ただ、アゼルバイジャンではシンプルに卵とトマトだけを合わせるところを、トルコでは家庭によって玉ねぎやピーマンなどを加えるそう。
この他にもチーズ春巻きのようなシガラボレイなど、トルコの定番の朝食メニューも、アゼルバイジャンの食卓にも登場する。
他国の影響はこれだけではない。ソ連時代の名残で、ロシア風の穀物を甘く煮たお粥(カーシャ)や薄いクレープのようなパンケーキ(ブリヌィ)や、チーズパンケーキのような料理(シールニキ)などもよく食べられているのがとても興味深い。
例えば遅く起きた週末の朝、カスピ海の辺の海辺のレストランに、ゆっくりと朝食を食べに出かける、そんな休日の過ごし方はとてもバクー市民らしい。
Written by 岡田環(アゼルバイジャン)