
このコラムでは、世界中の読者から寄せられた仕事やキャリアに関するお悩みに対して、キャリアコンサルタントの岩井真理さんに回答いただいています。
50代、現在は専業主婦のI子です。2年前に夫が単身赴任していたアジアの国から6年ぶりに帰国しました。
やっと落ち着いて、これからは夫婦で穏やかに過ごそうと思っていた矢先、再度の海外転勤の内示が出ました。
前回は娘も同居していたし、私も管理職として働いていたので帯同しませんでした。その後、仕事もやり切ったので、退職して専業主婦になりました。
退職直後はアイデンティティクライシスに陥りつつも、これまで時間がなくてできなかった趣味や友達付き合いを満喫し、留守番生活を頑張って乗り切りましたので、とてもエネルギーが要りました。
夫が本帰国してからはホッとし、夫婦でゆっくりセカンドライフを過ごしたいと思っていたのに。「また、留守番か」と思うと、振り回されてばかりでどうにもやりきれません。私の人生って何だったんだろう。
夫は口では「断る選択肢などない」と言いつつどこか楽しそうで、私だけ置いてきぼりにされた気分です。かと言って、この年で初めての帯同生活するのも自信がありません。
日本に残っても、帯同しても、孤独や不安を感じるでしょう。どうしたらいいでしょうか?

I子さん、こんにちは。世界中どこにいても輝けるキャリア&ライフを応援する真理です。
長い留守番生活が終わり、2年前にこれからの穏やかな日々を期待したのも束の間、またもや海外赴任とは、おっしゃるようにやりきれませんね。
内示を知らされた時のI子さんのお気持ちを思うと、元・駐妻の私としては、全身の力が抜けそうになります。胸が詰まる思い、よく伝えてくださいました。
海外転勤のみならず、自分の決断で行動ができない配偶者の仕事都合というのは、とにかく厄介です。
夫婦・家族の課題でありながら、蚊帳の外に追いやられたような、自分ではどうすることもできないもどかしさがありますよね。
にもかかわらず、配偶者本人はいとも簡単にこの話を引き受けてきた。
I子さんが釈然としない最大の理由の一つに、「仕事だから仕方ないだろう」という暗黙の言い分を突きつけられているような気持ちがあるのではと想像します。
残念ながら、夫さんには悪気はなく、以前の経験もあるから当たり前と話を進めているのでしょう。
今だからこそI子さんの中で、どんな気持ちが湧いているかはご存知ないように感じます。となると、ここは腹を割って、今のI子さんの気持ちをきちんと夫さんにお伝えすることが、まず必要だと考えます。
I子さんは家庭と仕事を両立して管理職にまでなられ、単身赴任中は夫さんが安心してお仕事できるように留守を守り、一方でご自分の生活にも努力や工夫ができる人だと察します。
そんなI子さんだからこそ留守をお任せしても、今回も二つ返事で「いってらっしゃい」と言ってくれると彼は思い込んでいる気がします。
時期が違えば、事情も違うし、ライフプランだって変わってきますよね。そのこと、きちんとお伝えになりましたか?

唐突ですが、ここで「ライフキャリアレインボー」というお話をさせていただきたいと思います。
人は、この世に生を受けた時から、何らかの役割を担っていると言われます。
最初は誰かの「子供」という役割、これは親が亡くなるまでずっと続きます。
そして、「子供+学生」から「子供+職業人」に変化したり、そうこうするうちに「子供+職業人+家庭人(独り立ち)」そして「配偶者」や「親」という役割が加わったりします。
この理論を提唱したドナルド・スーパーという教育学者はさらに、「余暇人」や「市民」という役割も位置付けています。
「キャリアとは単に報酬を得て働く仕事のことだけではない」と考え、彼は人生を「レインボー(虹)」になぞらえました。
人は同時期にいくつもの役割を担い、その一つ一つを豊かに育てキャリアを形成します。虹の幅は、ある一定の時期に厚みを増すこともあれば薄くもなり、代わりに他の役割が増えていきます。
ドナルド・スーパーは、「生涯を通じて、何らかの役割を果たす過程が重要である」と言っています。
特に、40〜50代前半は役割の重なりも多く、厚みを増している状態ですが、それを過ぎると職業人としては人生の分岐点に差し掛かり、より「家庭人」「配偶者」「市民」「余暇人」などの役割が増していくのです。

今、I子さんご夫妻はこの人生の分岐点にいるのではないでしょうか?
「人生100年時代」と言われて久しいですが、これまで夫婦でがむしゃらに走ってきたけど、ここから残りの人生を、どんなふうに過ごしていきたいか、どんな役割があって、どこに厚みをもたせたいか、じっくりとご夫婦で考える時が来たように思います。
そんなターニングポイントが、再度の海外赴任というお土産を持って来たのです。
初めての帯同生活に不安も多いことと思います。何歳になっても、初めてやることは心配がつきものです。
でも、帯同すれば孤独ではないし、海外で起こるアクシデントは、後々夫婦揃って笑い話にできることもあります。
「人生のほんの何年かを一緒に海外で過ごす」というのも、この時期だからこそ、一つの選択肢であることは間違いなさそうです。
もちろん、留守番するのもアリです。その場合は、今度こそ「帰任してきた夫さんとどんなセカンドライフを過ごすのか」をあらかじめ具体的に話し合っておいて、そのための準備を整える時間にすることもできそうですね。
I子さんは、これまで本当に頑張ってきました。献身的に家族を支え、エネルギッシュに生きてこられました。
その分、自分のことはちょっと後回しにしがちで、少し我慢したことも多かったかもしれません。「コップの中の水が溜まりに溜まって決壊した」そんな感じかもしれませんね。
だから今こそ、「自分らしいシニアライフ」のために、
①今までの経験を活かして、同じように過ごす
②新しいことにチャレンジしてみる
③これまでの人生でやり残したことに向き合う
など、いくつかの可能性を書き出して、方向性を見つけていくと良いですね。
I子さんの心ままに、自分の気持ちに素直に従えば、それがベストチョイスになるはずです。
今回の決断は、I子さんの手の中にあります。応援しています。
Written by 岩井真理(日本)
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