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「なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう」対岸の彼女 角田光代著

2021年8月24日

ギリギリまで揺れて悩むオンナたちの心

無性に小説が読みたくなった。それも上質で、強くて繊細な女心が描写されているもの。でも恋愛ものでもなくて…。そんな時は角田光代さんの本がいい。

私は角田作品が好きで何冊か読んできたが、その理由は登場人物の女性たちに独立精神を感じるからだ。

この小説は、2つの場面が交差しながら進む。それぞれのシーンに2人の女性と2人の少女がメインの人物として登場する。

そのうちの1人は「葵」という同じ名前の人物。この2人がこのあとどのように絡んでくるのか、性格は結構ちがうようだがもしかして同一人物なのだろうか、などと考えながらページをめくっていった。

ネタバレになってしまうので、この点についてはここで触れず、悩める女心について少し考えてみたいと思う。

日本というわりと封建的な社会において、家族や周りに翻弄されて、悩める女性は多い。

本書に出てくる小夜子もそうだ。寿退社して子に恵まれ、幸せな家庭を手に入れるものの、幼い娘のために公園通いの毎日。性格があまりオープンではないため、公園でママ友を作るのも容易ではない。

そんなある日、「働きにいこうと思う」と小夜子は夫の修二に告げる。

最初はあまり本気にしていなかった修二だが、小夜子は娘を預かってもらっている義母に小言を言われながら、何度も面接に落ちながら、ようやく葵が経営する会社に採用された。

二人は偶然にも同い年で、しかも同じ大学の出身だったが互いに面識はなく、でも葵の性格からか、二人の距離は急激に縮まっていく。

最初は家庭と仕事の両立に悪戦苦闘しながらも、徐々に慣れ、仕事の楽しさに目覚めていく小夜子。独身で開放的な葵の影響か、徐々に心の自由を取り戻していく。

このまま、理解のない夫の元を去ってしまおうかという想いに駆られるものの、最後に選んだのは家庭。

この辺の心理描写にとても共感を覚えてしまった。文句を言ってはいけないほど幸せな生活をさせてもらっているのに、心のどこかにわだかまりを抱えている主婦。

専業であれ、兼業であれ、家庭の仕事は無限にあるようなものだし、家族に感謝されることはあまりない。別に感謝を求めている訳ではないが、たまに心身ともに疲れ切ってしまう時がある。

立て続けに嫌なことが起こったり、途方もない気分に襲われたりした時に、何かがプチっと切れそうになる瞬間を経験したことのある人も多いのではないだろうか。

でも、その一線を越えてしまう人と越えない人がいる。

一線を越えたらどうなってしまうのだろうか?それは越えてみた人にしかわからないだろう。もしくは周りに越えてみた人がいるかもしれないが、やはりかなり危険な香りがしないだろうか。

鬱々とした日常ばかりでも気が滅入るし、たまには少し冒険もしなければ成長もできない気がする。安定した生活の中でも、たまに新しいことに挑戦してみるのはとても大切なことだと思う。

思い惑うこともあるだろう。悩み苦しむこともあるだろう。でもその心の揺れこそが人生であり、人生を楽しむために欠かせないエッセンスではないだろうか。

安定した日常の中でもギリギリまで揺れて悩む女子高生たち、自由だが孤独な女経営者、さまざまな年代の女心が描かれている本書は、コロナ自粛で言いようのない閉塞感を感じている女性におすすめだ。

Written by 藤村ローズ(オランダ)

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