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特攻の島 佐藤秀峰著

2019年8月7日

昨日8月6日は広島に原子爆弾が投下された日であった。1945年の出来事である。

その少し前の終戦末期といわれる頃には、日本の戦局はすでに非常に追い詰められたものとなっており、日本軍はかなり厳しい戦法を取らざるを得ない状況に陥っていた。

そんな中で、「回天」という兵器が秘かに開発されていた。天を回し、日本を窮地から救う兵器。

実は私は靖国神社を参拝した際に遊就館で見たことがあった。でもその時は他のたくさんの展示の中で胸がいっぱいになってしまい、回天についてはよく理解していなかった。

まさかこの中に人が入って魚雷となって攻撃をし、脱出装置すらない「人間魚雷兵器」だったとは。

この本は「回天」の攻撃部隊にまつわるストーリーである。

登場人物のほとんどが実在の人物。

コミックとして脚色は加えられているものの、人間魚雷兵器「回天」はもちろんのこと、主人公・同僚・上官まで実際に福岡海軍航空隊で実際に戦った人たちが登場している。

舞台は、昭和19年。

すでにサイパンは陥ち、米軍による本土攻撃がいつはじまるかもしれない日本。非常に厳しい戦局の中で、奇跡の挽回を願って新しい特殊兵器が開発され、100名の搭乗員が募集された。

この兵器に一旦搭乗すれば、生還を期することはできない。

主人公の渡辺雄三は、まだ二十歳そこそこの若者。

福岡の貧しい家庭の出身で、家族を支えるために予科練に志願した。お国の為に生還率0%の特殊部隊に志願したものの、自分の「命」をかける意義はまだ分からない。

ある日「回天」の開発者、黒木博司と出会う。黒木による回天の訓練に同乗したことから、渡辺は変わりはじめる。

渡辺は訓練で優秀な成績を挙げるようになり、ついに出動を命じられる。しかし、故障により「出戻り」となる。

通常一度出動した者が再度出動することは許されない。しかも、出戻りに対しての目は厳しい。

渡辺は何度も上官に出動命令を懇願するが、なかなか許可されない。次第に渡辺は病んでいく。戦局はさらに困難を極めていく中で、ついに渡辺に出動命令が下る。

渡辺はただ絵を描くことが好きな青年だった。

田舎から出征する時に母親から渡されたスケッチブックに、時間を見つけては見た景色や自画像を描いていく。出陣直前の潜水艇の中でも。

その絵に主人公の心情がリアルに描かれているようでぐっと来るものがある。

この作品は全9巻からなるが、表紙に描かれている渡辺の姿も象徴的だ。実際に全巻を読んでみると、表紙の絵とともに彼の成長していく様がよく分かるだろう。

この本の発行は2006年。Kindleをよく利用する私は、結構以前からこの本の存在を知っていた。

でも、「海猿」「ブラックジャックによろしく」などで知られている作者の佐藤秀峰氏の作品はとてもメッセージ性が強く、佐藤氏の書いた「戦争物」、しかも「特攻」となると、なかなか手が出なかった。

ある週末に、なんとなく第1巻だけダウンロードして読みはじめたこの本。途中から涙が止まらず、号泣しながら最終巻まで一気に読んでしまった。

改めて平和への感謝を痛感されられる。日本人として一度読んでみてほしい本だ。

Written by 藤村ローズ(オランダ)

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