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私が「白熱教室」で学んだこと ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで 石角友愛著

2019年3月13日

なぜ、人はハーバードへ行きたがるのだろうか。

スーパーエリートの名をほしいままに、いい職業に就くことができるからだろうか。いい仕事に就いて、たくさんのお金を稼ぎ、夢のような生活が実現できるだろうか?

世界大学ランキング上位の常連、ハーバード大学。もし自分の子どもが通うことになったらもちろん嬉しい。しかし、他の大学と何が違うのかを説明しようとしたらなかなか難しいの。

そんなことを思いながらこの本を読み進めていると、ハーバードにおける「成功」の定義について次のように書かれていた。

成功というと、日本では「他人を蹴落とす」とか、「金に汚い」というようなイメージでとらえられることがあるかもしれないが、それは間違いである。

ハーバードビジネススクールには世界中から成功を望む人があつまってくる。

だからこそ、道を間違えないように、「成功」の定義について授業で考えさせるのです。(本文より抜粋)

「成功」の定義はなく、授業を通して考えていくことで自分なりの「成功」の定義が見えてくるという意味のようだ。

たしかに人生において成功することは、自分らしく生きていくためにも大切なことだろう。でも何をもって「成功」なのか、自分なりの考えを持っていていないと道を踏み違えてしまうことにもなりかねない。これは成功者を多く輩出してきたハーバードだからこそ痛感していることなのかもしれない。

また、「白熱教室」で有名なマイケル・サンデル教授の授業のテーマは「正義」や「道徳」。日本でも「人様に迷惑をかけてはいけない」と親や学校で言われながら育つが、では「人に迷惑をかける」とはどういうことだろうか?

ハーバードでは、「『人に迷惑をかける』の定義付け」にはじまり、「いかなる状況でも、自分の幸福より他人の幸福を優先すべきなのか?それが社会全体の幸せにつながるのか?」などと問題を深く追求していくという。

こんな問題を考えていけばキリがない。キリがなくても考える。答えが出なくても考え続ける。答えを出すことは、むしろ目的ではないのだそう。ハーバードでは、どんなに権威のある有名教授でも、一教師の考えより生徒個々の意見があることが大切だとされているのだ。

こうした状況は日本では真逆と言ってもよいかもしれない。

日本でも近年授業の一環としてディベートなどが行われるが、そこに教師が期待している「決められた回答」が暗黙のうちに存在し、結局あらゆる社会問題に対して同質の意見でまとまってしまう傾向があるように思う。本を読み進めていくと、なかなか「ハウツー」から逃れられない日本の教育の実態が浮かび上がってくる。

著者の石角友愛さんは16歳の時に受験勉強に違和感を感じたことがきっかけで高校を退学し、アメリカのボーディングスクールへ留学。その後リベラルアーツ・カレッジであり、オバマ大統領の母校でもある「オキシデンタル・カレッジ」へ。

卒業後は日本へ帰国し、起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げ運営していたものの、2008年に再びアメリカへ渡り、ハーバード・ビジネススクールへ。卒業後はGoogle本社への入社を果たす。

華やかな経歴の石角さんだが、この本を読んでいるとそれに見合う努力をし、今もなお努力を続けている様子が伝わってくる。帰国子女ではなく、日本の高校を退学して単身留学した彼女が一つ一つ自らの力で考えながら経験しながら進んできたからこそ、日本での教育との違いやアメリカの学校ではどのように学ぶのかがよく分かる。

この本を読んでアメリカの大学院で学べることは素晴らしいと改めて思ったが、実際のところ、大学院へ行かなくても学ぶことのできる内容かもしれないとも思った。

何しろ人生は考えることの連続。自ら考えることなく生きていたら、他人に流されながら生きることになるであろう。自分なりに「成功」といえる人生を送ることすら難しいのではないだろうか。

それでも一千万円以上の学費をかける価値があるのは、若いうちに数々の成功者から直接リアルな話を聴ける機会があったり、徹底して考え、議論を重ね、フィードバックを得ることができること。また、そこで得られる恩師や学友、人脈だと思う。

そういう意味では、ハーバードに進学するということはただスーパーエリートとしての切符を手に入れることだけではなく、人生における貴重な学びの機会を時短で徹底的に与えてくれる場所として価値があるのだと思った。

ここでご紹介できたのはごくごく一部。本文中では、著者がボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールで学んできたことがさらに細かく書かれているので興味のある方はぜひ読んでみてほしい。

これを読んだら、お子さんの教育のアドバイスがしやすくなるだろうし、ご自身が世界スケールの環境の中で学び直してみたくなるかもしれない。

Written by 藤村ローズ(オランダ)

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