知人に薦められて購入したこの本。かなりの本好きである知人は「一度読んでほしい」と絶賛していたが、そのタイトルに「言いすぎでしょう」と少なからず反感を抱いてしまった。
たかだか語彙力で教養が決まるはずはない。教養とはもっと深く、そう簡単に得ることはできないものだ。そう思っていた。
自分には大した語彙力も教養もないことは十分に自覚している。だから努力し続けるのだ。
語彙力だけなら受験勉強で培った暗記でなんとかなりそうだが、教養は身に付けるのに何年も、下手すれば一生費やすことになるだろう。そういう認識を持っている人も少なくないはずである。
しかしながら、日常生活の中でも語彙力が足りなくて困ることは多々ある。表現したい単語がうまく浮かばない、微妙に間違った使い方をして恥ずかしい思いをする。経験のある人も多いのではないだろうか。
人の心を動かせるような素晴らしい文章を書ける人は、仕事やプライベートにおいても良い結果を得やすいだろう。
語彙力を高めることで教養も深められるのならば、一石二鳥。単純な私はそんな気持ちでこの本を読み始めた。
では、どのように語彙力を高めていけば良いのか。
著者の斎藤孝氏によると、それはまずインプットである。本をはじめとして、映画やテレビ、ネット上でもAmazonレビューなどインプットに使える機会は多くあると言う。
斎藤氏は毎日読書に数時間を費やし、それでもまだ読みたくて困るそうである。語彙力は知的好奇心に比例し、そのパッションを維持していくことが大切だと言う。
それと同時に大切なのが、アウトプット。得た知識、つまり語彙を積極的に使っていくことで自分のものをしていく。その作業の反復こそが語彙力を高めていくためのもっとも近道だそうだ。
ただしどんな本でもいいと言うわけではない。色んなジャンルの良書に多く触れることが大切である。
古典、名著からミステリー、エッセイ、海外翻訳本など、おすすめの本がたくさん挙げてあるのでぜひ参考にしてほしい。
著者は「セレクト音読」も勧めている。
セレクト音読とは、3,4ページ程度を抜粋し、そこを繰り返し音読する方法で、何度も繰り返すことでその世界観や語彙が自分に乗り移ってくる感覚が得られると言う。
試しに指定された箇所を声を出して読んでみると、古典などは本当に難しくて最初は何度も引っかかってしまうが、繰り返すうちに理解が深まり、すらすら読めるようになり、登場人物が乗り移ったように読めるようになる。
その中で得た表現を日常生活の中でも自然に使えるようになったらしめたもの、教養が深まったと言えるだろう。
例えばドストエフスキーの表現を日常生活の中で使いこなすのは難しいし、使う機会もなかなかないかもしれないが、その能力があることこそ語彙力、そして教養だと思う。
いつか同じ興味を持つ人たちと出会い、語り合うことができた時の快感は計り知れないだろう。
ちなみに私のケースで言うと、以前紹介した「ティファニーで朝食を」のトルーマン・カポットについて、オランダ人と語る機会があった。
読んでてよかったと本当に思った。(世界的に有名な本については国境を越えて話題に上ることがあるので、翻訳でよいので読んでおくのがおすすめ)
興味の合う世界のどこかの人と語り合うその日のために、語彙力を高める努力をし続けようと本書を読んで改めて思った次第である。
ちなみに努力は一生続くという私の認識は間違っていなかった。
世界最古の本は紀元前3500年のメソポタミア文明にまで遡る。そこから現代に至るまで、世界中で名著が生まれ続けているのだから、私たちは本を読み続けなければいけない。
そこには、知的好奇心が満たされ続ける恍惚の世界が待ち受けているに違いない。
Written by 藤村ローズ(オランダ)