タイトルと表紙からお気づきの方もいらっしゃると思うが、医療ものの小説である。
「神様」という単語から、天国を連想した私は、生死に関わるストーリーだろうか、読みながら号泣するかもしれないと少々覚悟して読み始めたが、後味がとても爽やかな本だった。
主人公は、栗原一止(いちと)、勤務5年目の青年内科医。信州にある、地方都市の一般病院としてはかなり大きな病院で働いている。一般医療から救急医療まで、24時間365日対応で担うこの病院で働く医師達は相当に忙しい。
なんたる失態だ・・・・・私は慨嘆した。
これはこの本の冒頭であるが、栗原は救急外来の当直中に、妻との初めての結婚記念日があと1時間で終わるという状況に陥っている。もちろん、列をなして待っているけが人や病人を差し置いて帰宅することはできない。
特に栗原が当直の晩は「大当たり」と言われ、ただでさえ多忙極まる救急外来にさらに患者が殺到する。この晩もそうだった。
栗原が深夜未明にようやく帰宅すると、栗原の妻、榛名は置き手紙をして、すでに1週間のモンブラン撮影旅行へ旅立っていた。結局二人が再会できたのは1週間後となってしまった。
榛名がまたいい。初めての結婚記念日をすっぽかされても怒るどころか「おかえりなさい!」と抱擁で迎える。一見すると華奢な女の子であるが、その実態はたくさんのカメラを抱えて世界を飛び回る、山岳写真家。少々変わっている(?)栗原をこよなく愛し、受け止める。
そんな二人は、築50年を超える幽霊屋敷のごとき二階建ての木造アパート「御嶽荘」に好き好んで住んでいる。
御嶽荘の住人達も個性豊かである。
栗原のことを「ドクトル」と呼ぶ絵描きの「男爵」に、大学院生の「学士殿」。彼らとは一緒に酒を飲み交わし、そのまま部屋で酔い潰れることもしばしばある仲。建物にふさわしい住民というのであろうか、平成に生きる人々ではないようだ。
同じ病院で働く医師たちも、とてもキャラクターが強い。
同僚で色の黒い大男の外科医、砂山次郎はなんともいい味を出している。二人は大学の寮の隣の部屋で4年間生活してきた上に、医師になってからまた同じ病院に派遣された腐れ縁。
栗原の消化器内科の上司の二人もいい。太った腹をゆすりながら豪快な笑い声で患者達を魅了する部長の「大狸先生」と、やせぎすで三日徹夜で働いても三日休んでも変わらず顔色が悪い「古狸先生」と栗原は勝手に命名している。
本作は、シリーズの第1作目。すでに映画化もされ、現在は新章神様のカルテとして大学病院に戻った栗原が家族と新たな環境へと進んでいくシリーズに突入している。
どこかの町に住んでいそうな人間味ある登場人物達に魅了され、その成長や未来を見守って行きたくなる小説である。
Written by 藤村ローズ(オランダ)