誰もが夢を見られる自由の国、アメリカ-なんて言っても、そこはやはり人の住む国。どの職場もいつも楽しくハッピー…というわけではなく、ゴタゴタだってあるわけです。
今回は、私が完全米系の客先に出向した時の七転八起のエピソードをお話しします。
2016年の夏、私はGAFA系列の某社に出向社員として採用されました。それまで比較的小規模なオフィスで働いていたので「大企業の内情を知るチャンス!」とワクワクしていました。
でも、心躍ったのも束の間。まず最初の洗礼は上司からの厳しいお言葉。
“You didn’t show enough confidence during the interview process. You have to build confidence.”(君からは十分な自信が面接過程で見られなかった。自信をつけなさい)
採用が決まった直後にソレ言うんですね。図星を指されて目の前が一気に暗くなりましたが、ここで引き下がっては上司の言葉をそのまま肯定することに。それはイカン。
私はとっさに微笑み、上司に握手を求めながら彼の目を見て言いました。
“I will. Thank you for having faith in me.”(そうします。可能性を見出して頂き、ありがとうございます)
よく言ったよ、わたし。後々、自分の機転を自画自賛しました(笑)
しかし勢いで「やります」と断言したものの、実際は「自信てどうやってつけるの??」とグルグルしていました。でも、ハッタリだろうが今更引けません。
前回のコラムで触れましたが、こちらはat-will(アット・ウィル)と呼ばれる即日解雇もあり得る雇用形態なのです。
早速、自信のつけ方について悶々と考え出しましたが、このせいでトラブルに見舞われることになろうとはこの時、思ってもいませんでした。
メディアで報道されているスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグのカジュアルなスタイルは、カリフォルニアのテク系企業ではごく一般的な出社時の服装です。
私の出向先もTシャツとジーンズという出で立ちの人が多かったので、それにならって同じような服装でオフィスに赴きました。
最初の数週間は周りに溶け込もうと色々な人に話しかけて情報収集をしていましたが、次第に仕事のやりづらさを感じ始めました。
まず、正社員の選民意識。これはどの文化でも共通でしょうか。正社員の皆さまのそこはかとないプライドを感じる場面がちらほらとありました。出向社員はバッジの色で区別されていて一目瞭然です。
こちらは正社員の区分を知る由もないのに「自分はレベルXXだから~」と自慢気に言われたことも。
こちらはとにかく情報が欲しくて方々にメールを送ったり話しかけたりしていましたが、相手にされていない感をヒシヒシと感じました。
そして「社内wiki読めばわかるから」程度のあってないような新入社員オリエンテーション。それでいて、そのwikiのURLは教えていただけないんですね…。
初っ端からドライなまでのdata-driven(データ・ドリブン=データ主導型)企業文化を体験しました。そう、ここでもタイミングや頃合いを見計らって、うまく立ち回らなければ仕事に最低限必要な情報さえ分からない環境だったのです。
悔しいですが、上司の「自信をつけろ」という忠告は的を得ていました。慣れない職場で自信なさげにキョドっている出向社員を気にかけてくれる正社員はいませんでした。
そんなこんなでモタモタしていると、勤務先でスタンバっているチームに有益な情報を流せない私への風当りも次第に強くなっていきました。ここで形勢逆転できなければ、明日にでもクビになっておかしくないような窮地へ追い込まれていました。
ぷちーん。ここまで来て、わたしもさすがにキレたというか、ヤケになったんですね。そうか自信か、そんなもん今すぐつけてやる。
それまで抱いていた「職場に溶け込みたい。好かれたい」という甘い願望は消え去り、とにかく結果を出して生き残るサバイバル・モードのスイッチがようやく入りました。
形勢逆転のために変えたのが、まず服装でした。何より気分を切り替えたかったし、周囲にもわたしが真面目に仕事をしに来ているということを示したかったからです。
Tシャツ&ジーンズのカジュアルな服装はやめ、キレイ目のトップスにペンシルスカートのビジネスカジュアルに切り替えました。
それでも日本の基準で見たらカジュアル過ぎくらいの格好でしたが、99%の社員がTシャツ&ジーンズのオフィスでは十分に浮くレベルでした。すると、驚くほど周りの対応が変わって行きました。
ある日黙々と仕事をしていると、以前話しかけた時はほぼスルー状態だった正社員Aが話しかけて来たのです。
あまりに意外で、私に話しかけていることにすぐには気付きませんでした。逆スルーしているように若干見えたかもしれません(笑)
服装だけで自信がついたわけではありませんが、吹っ切れなかった自分を後押ししてくれる要素だったことは確かです。
英語表現で、ここ一番の勝負処(プレゼンとか面接とか)で自分の気分をアゲてくれるとっておきの服を着ることを「I’ve got my power suit on」と言ったります。パワースーツと聞くと、力が宿ってる気がしませんか。
それから全てが劇的に好転したわけではありませんが、足掛かりを得たことで徐々に内外からの信頼を築くことができました。
以来、出向先にはカリフォルニア感を無視したビジネスカジュアルでしか出社していません。
「Fake it till you make it(うまく行くまで、うまく行ってるフリをしろ)」もこちらでよく耳にする表現ですが、ほんとハッタリも続けているうちに真実になることを実感しました。
これはNLP(神経言語プログラミング)にも通じるアプローチで、なりたい自分・理想の自分で在れる境界を服装に置くことで意識的にコントロールしているわけです。
私が自信をつけるまでの七転八起エピソードいかがでしたでしょうか。次回もお楽しみに!
Written by 野田リエ(アメリカ)