ベルギーは2018年12月、政党間対立を背景にミシェル首相率いる前政権が崩壊し、2020年10月まで中央政府がなかった。驚くべき事実だが、これが意外にうまくいっていたらしい。
北のオランダ語のフレミッシュ政府、南のフランス語のワロン政府、ドイツ語政府、ブリュッセル政府などの地方政府が機能して、ベルギーは回っていたのである。それぞれの地域で判断して、それぞれに動かしていたという。
ヨーロッパの北西部に位置するベルギーは、オランダ、ドイツ、ルクセンブルグ、フランスに囲まれており、東京の約8割の人口で、1,200万人ほど。
公用語はフランス語、オランダ語、ドイツ語。ヨーロッパ諸国が基本的に国の言語をどう守るかを課題にする中、ベルギーは公用語自体が3つある。
ドイツ語は、事実上ほとんど話されておらず、オランダ語、フランス語がメインである。英語を話せる人も多く、日常生活は英語のみでもなんとかやっていける。
ヨーロッパは陸つながりで、ラテン語、ゲルマン語がベースになっている。2,3ヶ国語を話せることは特別なことではなく、やる気になれば、大人になってからでもバイリンガル、トライリンガルになることは不可能ではない。
ただしこれは、国が推奨した結果ではない。それぞれの国で文化が違い、プライドもしっかりあるので、国を挙げて、「他の言語を学ぼう!」なんて雰囲気は毛頭ない。
この言語環境の背景にあるものは、オランダ語を話すフレミッシュ系ベルギー人と、フランス語を話すフランス系ベルギー人との戦いである。ベルギーの言語事情は、ベルギーの歴史なくして語れない。
マルチリンガル表示。順番に決まりはなく、4カ国語あるのは稀
1830年にオランダから独立した時から、ベルギー王国となる。
それ以前は、貴族がそれぞれの地域を領土としていた。1790年に一度、ベルギー合衆国ができるが、すぐに滅亡。フランス革命以降、ナポレオン率いるフランス革命軍に支配される。
オランダがナポレオンに苦戦していた頃、様々な取引の中でベルギーはオランダ領となる。オランダ領になったベルギーは荒れてしまい、国民の不満が募って、1830年に反乱戦争が開始。そして勝利。
当時繁栄していたカトリックでフランス語圏の上流、中流階級が起こした、オランダのプロテスタントに対抗する革命である。
1968年には、学生運動が勃発。この頃までは大学の講義はフランス語でしか受講できなかったが、1972年頃からやっとオランダ語での受講が導入される。
北のフレミッシュ(オランダ語)系の古い都市、アントワープ、ゲント、ブルージュなどでも、上流階級は家でも社会でもフランス語を話し、大学でもフランス語で受講していた経緯がある。
この名残か、フレミッシュ系の学校の生徒は、オランダ語、英語、フランス語を流暢に話すが、フランス語系の学校の生徒はフランス語しか話せないことがほとんど。
徐々に北のフレミッシュの人口が増え、新興企業や工業が盛んになって栄え、反対に南部のフランス語圏は工業の衰退に伴って、人口も減っている。
現在、58%がオランダ語のフレミッシュの地方、31%が南部のフランス語圏ワロン地方、ドイツ語圏は1%未満。移民が10%。事実上、フレミッシュ系が名誉挽回をしている状況である。
魚屋さんの比較。左:整然としたフレミッシュ系、右:ごちゃごちゃだが魅力的なフレンチ系
政府は力のせめぎ合いで戦いの様相であるが、一般の日常生活はといえば、どこでも言語が乱立している感じで、両方の文化を同時に一気に学んでいるようである。
一般の人もそれぞれを尊重して、自分が好きな方を選ぶだけで、不満なども特にない様子。
初対面の人との最初の一声は、「フランス語?オランダ語?」「両方ダメなの?じゃあ、英語?」でスタート。
週末のマルシェに行くと、フレミッシュ系の整然ときちっと並ぶお魚屋さんでオランダ語を練習した後は、フランス系のごちゃごちゃだけど、地中海のたくさんの種類のお魚をお披露目しているお魚屋さんで辿々しいフランス語でオーダー。
チーズも、オランダのハードチーズとフランスの柔らかめチーズもたっぷり頂けてしまう。スーパーマーケットで見る商品は全て、フランス語とオランダ語が表示されている。
因みに、夫はオランダ人なので、フレミッシュ系のエリアを選ぶかと思いきや、バケットが大好きなので、フランス系のエリアが良いとフランス系の住宅街に住んでいる。
そんなブリュッセルでのお隣さんは、ドイツ人のマダム。家の大工さんはポルトガル人で、子供たちのバイオリンの先生はルーマニア人。もう、言語に拘っている場合ではない?
今年に入り、正式に起業し、表千家講師、そして、片付けコンサルタントとして活動を始めました。オランダ語の明るい笑いのネタを入れたり、フランス語のエレガンスを入れたりと、楽しく模索中の日々を送っています。
先月はオランダを感じたかったので、チューリップ畑に行ってきました
Written by ホーゲデウア容子(ベルギー)