シチリア在住、桜田香織です。今回はまだほとんど触れていなかった私の住んでいる町、パレルモについてお話をしようと思います。
「食」について書くことが多いですが、観光業も盛んで見どころ満載のシチリア、町によって違った顔を見せてくれるシチリア。その州都パレルモのおすすめスポットをご案内します。
パレルモには沢山の貴族の館が残っていますが、そのほとんどは州政府の手に渡っています。
子孫がいなくなったり、維持費がかかり過ぎるというのが主な要因となっています。
一般に解放しているところも少なく、多くは結婚披露宴やその他パーティ会場として貸し出しされています。
しかし現在も伯爵が実際に住んでいる館があり、予約制有料で見学をすることが可能です。その名もPalazzo Federico II、フェデリコ2世伯爵の館。
フェデリコ2世の末裔ご夫妻
12世紀初頭シチリアでは王位継承の問題が起こり、詳しい歴史は割愛しますが、現在のドイツ、ホーエンシュタイン王朝から王様を迎えます。
しかし彼とその妻が相次いで亡くなり、まだ4歳だった息子、フェデリコ2世が王位を継承しました。
もともと知的好奇心の強い子で、母親の願いでローマ教皇を後見人とし、高位聖職者によって英才教育をなされます。
当時のパレルモはビザンチン、アラブ文化が融合した独特な雰囲気を醸し出しており、かなり国際色豊かな街として知られていましたが、フェデリコ2世は幼少の頃からラテン語、ギリシャ語、アラビア語など、6カ国語を話す秀才ぶりを見せていました。
シチリア王であり、神聖ローマ帝国の校庭でもあった彼、十字軍としての活躍も見逃せません。しかし外交術に長けた彼は、血を流すことなく話し合いで物事を解決してきました。
そして各地に愛人も沢山いたそうです。詳しいことは塩野七生さんが「皇帝フリードリッヒ2世の生涯」に書かれていますので、ご興味のある方は是非読まれてください。
現在当時の館はそんな愛人の子供の1人、12世紀のフェデリコ2世の末裔ご夫妻が住んでいて、ご夫妻のガイドによって見学ができるのです。
キッチンと伯爵の愛車
本当に末裔なのか?私も色々と調べてみましたが、過去から歴史を追っても現在から遡っても、全てが繋がるわけではありません。間に800年の時間がありますからね。
ただ現在の伯爵は、イタリアの貴族のリストの中に正式に「フェデリコ2世の末裔」として載っているそうです。
さてこのフェデリコ伯爵、20歳年下のオーストリア人の奥様と仲良く暮らし、大のクラシックカー好きとして有名。若い頃からあちこちのクラシックカー・レースに出場なさっています。
館は見事なもので、高い天井、マヨルカ焼きのタイル・・と見所は沢山ありますが、私が一番好きなのはキッチンです。
当時のキッチンにガスを引いて、現在でも使用できるのです。そのキッチンで12世紀にはフェデリコ2世の為に食事が作られ、食堂では宴会が開かれていたのですよ。
あちこちの民族に支配され、暗い事件も多いシチリアではありますが、一方でフェデリコ2世のように国際的で友好的な政治が行われていた時期もありました。
現存する末裔の伯爵も非常に国際的でオープンマインドな方、何百年もの間にも変わることのない気質が受け継がれているのかもしれませんね。
そう思うとこれからのパレルモ、シチリアにも期待をかけて、幸あれ!とエールを送りたくなります。
Written by 桜田香織(イタリア)