ここ数年、「アート思考」についての本をよく見かけるようになった。
インターネットの登場によって、世界の多様性を受け入れることが当たり前の世の中、おきまりの正解やゴールが存在しない世の中になってきている。その中では、他社からの影響を受けて流されるのではなく、「個人の主観」を重視するトレンドが生まれてきている。
アート思考とは、自分の内面と向き合い、自分軸で答えを生み出していくというスタンスだ。
この本では、美術の教師である著者が、13歳を対象とした、6回の授業を行う。
中学生が嫌いになる教科第一位は「美術」だそうだ。しかし一方で、美術は今、大人が最優先で学びなおすべき教科だ。
この授業を受けると、思考がアップデートされ、子供はアートが好きになるだろう。そして大人はアート思考が学べるだろう。
「アート思考をめぐる冒険」を体験するうちに、「アートの見方、考え方」を学びつつ、見る側の先入観はどんどん崩れていく。
また、本書ではアートの歴史上の流れも掴むことができる。
本の冒頭で、まず1枚の絵を鑑賞する。その後の質問「絵を鑑賞した時間と、解説文を読んだ時間のどちらが長かったか」にハッとさせられる。
「自分なりのものの見方、考え方などとは程遠いところで、物語の表面だけを撫でてわかった気になり、大事なことを素通りしてしまっているーそんな人が大半だ。」
まさにそのとおり。本の中での問いかけや解説は、常に読者に自分なりの考え方を促していくのだ。簡単な演習があるのだが、ぜひ紙とえんぴつを用意して取り組んでほしい。より学びが深くなるだろう。
この本は、美術教師でありアーティストである著者が書いた原稿を、夫を通して仕事上のパートナーである戦略デザイナーにつながり、そこからすぐに出版が決まった。
著者の末永幸歩氏にとってははじめて出版された本で、まだ発売から2か月あまりだが、ビジネス本として、各方面の専門家から大絶賛され、高い評判を得ている。
子供にとってもわかりやすく、大人にとってもわかりやすい内容なのに、理解や学びは深い。
私の中でもアート思考はトレンドで、ここ1年で同様のテーマの本を5冊ほど読んだが、その中でもダントツで役に立つ本だと言っても過言ではない。
Written by 土屋芳子(マレーシア)