私はMental Health Support worker。オーストラリア、シドニーで、Mental Health Support Workerとして働いて3年半が過ぎた。
それまで全く経験した事がなかったこのフィールドに思い切って飛び込んで以来、数え切れないほどの学びと気づきを与えられ、お陰さまで生きることがまた少し楽になった。
私は精神障害を持つ人々が共同生活するグループホームに通い、彼らの日常生活の自立支援をしている。
「自立支援」なので、基本的に「代わりにやってあげるサポート」ではなく、彼らが自分のやりたいことを精一杯、できる限り自分でできるようにサポートするのが私の仕事。
現在、3軒のグループホームに通っており、合計11人のクライアントをサポートしている。
料理に興味があるクライアントと一緒に晩御飯の支度をしたり、散歩が好きなクライアントと一緒に近くの公園に散歩に行ったり。一人で行動することが好きなクライアントには必要以上に干渉せずに、彼らの選択を尊重する。
ついつい口出ししたくなるのをぐっと抑えることもしばしばだが、彼らの笑顔を見るとなんだか私の心も顔もほころんで、「大した事じゃない」と思えてしまう。
この仕事を始めて以来、笑顔の魔法の威力を何度思い知ったことだろう。
「精神障害を持つ人々をサポートしたい」という意欲を持ってこの仕事に飛び込んだ私だったが、その反面、それまで全く接した事がなかった「精神障害者」への偏見を持っていたのも確かだ。
障害者サポートを専門学校で1年間学び、講師から耳にタコができるほど聞いた言葉、「その人が持つ障害に注目するのではなく、その人の人となりに意識を向ける」。
わかっていたつもりだったが、実際に仕事に就いた初日、私の意識は彼らの「精神障害の部分」に釘付けになった。平常心を保とうと必死に取り繕っているうちに、なんだかあっという間に時間が過ぎた。
今だからこそ笑って言えるのだが、正直言って、最初は彼らの事が怖かった。波風を立てないように、怒らせないようにと注意しながら接していた。
そんな、「人と真摯に接する」という、私に欠落していた部分をさらけ出して見せつけてくれたクライアント達。最初は痛い思いをたくさんしたが、今ではあの経験達は、私を成長させ強くしてくれた宝物として私の心の中で輝いている。
この宝物のおかげで私は人生で初めて、人に職業を尋ねられた時、「私は、Mental Health Support wokerです」と胸を張って言えるようになった。
それはきっと、私が勝手に作り上げていた「クライアント達と私の間の壁」を少しづつ壊し始めた兆しかもしれない。
仕事とは、その時私が抱えている最大の課題を解決するために私の手の中に来てくれる気がしてならない。
この仕事に巡り会う前の私は、誰の助けも借りずに自分の力だけで生きていく事が正しい事だと頑なに信じていた。「手伝って」とか「助けて」なんて言葉は、私にとって絶対に口にしてはいけない言葉だと思っていた。
そんな私がこの仕事に巡り会い、日々「サポート」を受けながら生きている人達に出会った。そして、彼らをサポートしているうちに気がついた。彼らからサポートされながら、日々生かされているという事に。
彼らの存在なしには、私は家賃が払えない。彼らの存在なしには、私はご飯を食べることができない。彼らのおかげで休日に海に行ったり、外食することができる。彼らのおかげで、インターネットやパソコンを使って好きなことができる。
仕事とは、自分が生きているのは実は「お陰さま」だという事をことを気づかせてくれるもの。自分ひとりの力じゃ何一つできない自分、それが「本当の偽りのない自分」だということを彼らは日々私に教えてくれる。
私の最大の課題だった「失われた感謝の気持ち」を見事に復活させてくれたこの仕事。その時の自分に一番必要な学びが散りばめられている場所。
今の私にとって、きっとそれが「この仕事」なんだろう。
2年ちょっとの無職生活の末にたどり着いたこの場所は、温かくてそしてちょっぴり波乱に富んだ、そんな素敵な場所なんだ。そんな素敵な場所で、私は命を救ってもらったような気にさえなるんだよ。
Written by 野林薫(オーストラリア)