日本はまだまだ寒い日が続いているようですが、一足早く春の兆しが見えているシチリアより、桜田香織がお届けします。
今回は小さなお祭りのご案内をしたいと思います。それは「父の日」、多くの国で母の日が同じ日なのに対して(イギリスなどの例外は勿論あり)、父の日は各国でかなり差があるようです。
イタリアでは3月19日、その日はキリストの父親である「サン・ジュセッペ」(英語では聖ヨゼフ)の聖人の日であり、したがって父の日となったそうです。
母親である聖母マリア様と比べると今ひとつ存在感の薄いジュセッペさんですが、シチリアではいくつかの町でお祭りが行われます。その一つが「カパーチ(Capaci)」という町。
このお祭りの特徴は、「手作り感が強い」ということでしょうか。
伝統的に父の日に食べる「サン・ジュセッペ」のスープという物があります。野菜類、豆類、乾燥させた栗、そしてパスタという具材としてはとても質素な物で、長時間煮込みます。
実際にはあまり家庭では作られていないのが現状らしいですが、それは時間がかかるのと少量を作るには適さないという理由からのようです。
ところがこの町ではこの伝統を守り続け、町中の人が作って食べるという習慣が根付いているのです。
いくつかの家族ごとにグループができていて、各々野外に火をくべ、大鍋で作っていきます。早朝からありとあらゆる町角、広場、中庭的な所に設置され、しっかりとテーブルを出しているグループもあります。
10時くらいになるとあちこちから良い香りが漂い始め、でもまだまだ煮込みは続きますよ。
12時くらいになると「パスタを入れるぞ」という声がかかり、大量のショートパスタが投げ込まれます。ここまでくると後は20分くらいで出来上がり。
その頃になるとどこからともなく人が集まり始め、おそらく同じグループに属していながら作業には参加しなかった方達のようですが、スープはみんなに配られていきます。
あらかじめプラスチックのスープ皿は用意されていますが、さらに面白いのは家からお鍋片手にやってくる人達も多いこと。お持ち帰りをして家で食べるのでしょう。
いくつか並べられた大鍋には時間差でパスタが加えられ、出来上がった途端に列は乱れてあちこちから一斉に手が伸びてくる様はかなりの迫力、まるで映画で見た戦時中の配給時のようです。
日本人だったらきちんと列を保つのでしょうが、食べ物を目にしたシチリア人はそうはいきません(笑)。
あっという間に最初の大鍋は空になり、次の出来上がりを待つことに。中庭的な場所では外に出されたテーブルに他のお料理が並んでいることもあります。
右上:出来上がった途端に列は乱れてあちこちから一斉に手が伸びてくる
長年同じ家族でグループを作っているようで、それぞれの役割分担が決まっているようで面白いです。
そして顔見知りでない、通りがかりの人達にも食べ物を分けてくれるのです。もちろん私もご相伴に預かりました。有難い、ご馳走様。
メイン広場では区の行政組織がやはり同じように大鍋を並べ、そこでもご馳走になれるのですが、なんと言っても見ていて楽しいのは一般市民が勝手に盛り上がっている方です。
みんなが力を合わせて盛り上げていくという雰囲気ではなく、それぞれが勝手に作り上げていくお祭り、一見の価値あり。
そして勿論ドルチェも欠かせません。この日には「スフィンチ」という、揚げたシュー生地にリコッタクリームをたっぷりと入れたドルチェを食べるのが慣わし。これもボリュームタップリです。
それぞれのグループは規模も違えばスープの中身も多少変化がありますが、とにかくこの日を楽しみに、そして大切な日を大勢で一緒に過ごすことに喜びを感じていることが伝わってきました。
ちょっとだけ私も仲間に入れていただき、一般に貧しいと言われている南イタリアの小さい町で、人々の明るさと気前の良さにシチリアの底力を感じました。
Written by 桜田香織(イタリア)