MENU

空白を満たしなさい 平野啓一郎著

2019年6月14日

ゴロウ・デラックスという番組をご存知だろうか?

TBSの番組で毎週さまざまな作家をゲストとして迎え、著書について深掘りする”ブックバラエティ”。

2011年に始まり、2016年のSMAPの解散騒動を乗り越えて8年間続いていたのだが、残念ながら2019年3月に終了してしまった。

この番組をある日たまたま見ていた時に、その日のゲストだった平野啓一郎氏に興味を惹かれた。

なぜなら、その時に紹介されていた著書がとてもユニークだったからだ。

普通、本というと、縦書きか横書きで行換え以外に隙間なく文字が隙間なく並んでいるものだ。でも紹介されていた本は、文章の間に窓のような空白があったのだ。

電子書籍が浸透する中、紙でしかできない表現をしてみたかったと言っていたように記憶している。

なので、平野氏の本はぜひ紙で読んでみたいと思っており、普段なら1クリックでキンドル版を購入するところをわざわざ日本から取り寄せた。

平野氏は1998年に「日蝕」で当時最年少で芥川賞を受賞して以来、数々の賞を受賞している。

どの本から読みはじめるかとても迷ったのだが、結局選んだのが今回紹介する「空白を満たしなさい」。

決めては表紙のゴッホの自画像。

ゴッホといえば、オランダ出身の世界的に有名な画家。

生前は2枚しか絵が売れず、最後は自分の耳を切って、銃で自殺したという悲劇の画家である。オランダに住むようになってアムステルダムにあるヴァン・ゴッホ美術館に行って以来、その作品や運命に惹かれ、足繁く通っている。

平野啓一郎氏とヴァン・ゴッホがどのようにコラボするのかが気になってこの本を選んだ。(読んでわかったが、気になっていた空白がある本ではなかったのでご注意)

 

この本の主人公は製缶会社で働く36歳の男、土屋徹生。

彼は一旦死んだはずなのに、3年の時を経てある日突然生き返ったという。

土屋の他にも、世界中で死んで生き返った「復生者」が現れている。一体何が起こっているのか土屋はとても混乱する。

死んだ時の記憶がなく、なぜ自分が死んだのかすら分からない。仕事も家族も順調なはずなのになぜ死んだのか?

真実を求めて、家族や同僚・上司、復生者たちなど周りの人を巻き込みながら話は大きなスケールで展開していくと言った感じのストーリーである。

上・下巻あるので、非常にショートカットしたあらすじとなってしまったが、登場人物の設定がなかなかトリッキーな為かとてもリアルに描かれている為か、かなりスローなペースで進んでいくといった印象。

上巻は世界観を理解することに追われ、気になるヴァン・ゴッホとの関連性が分かったのも下巻に入ってから(私が気付くのが遅かったのかもしれないが)。

またこの本の中は、作者の平野啓一郎の唱える「分人」という概念も色濃く取り入れて描かれている。

「分人」というのは、いままで一人の人間は「分けられない(individual)」存在だと思われていたが、実は複数に「分けられる(dividual)」存在だという概念だという。

平野氏自身が小学生の頃、「相手によって態度を変える」と担任の先生から指摘されたことに違和感を抱き、自分探しをする過程の中で行き着いた概念だという。(インタビュー記事より)

この作品の主人公も「分人」の存在に気付く。そして、結末は…。

「分人」という概念。あまり深く考え込んでいると、頭と身体がパカっと分かれてしまいそうな気がしてくるのだが、むしろそれがとてもおもしろいと思う。

「分人」については、私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)という本に詳しく書いているので気になる方はそちらもぜひ。

Written by 藤村ローズ(オランダ)

この投稿をシェアする

イベント・セミナー一覧へ
コラム一覧へ
インタビュー一覧へ
ブックレビュー一覧へ
セカウマTV一覧へ
無料登録へ