この本はとても不思議な物語。
悩みを抱えた登場人物たちが突然たどり着く、出口のない不思議な劇場。古びたその場所で、年老いた支配人に出会い、怒ったり泣いたりしながらも、本当の自分に向き合っていく。
悩める登場人物たちのお悩みは次の通り。
「とにかく成功したい」「自分を好きになれない」「やりたいことが見つからない」「仕事がうまくいっていない」「人生をあきらめかけている」
このブックレビューを読んでいる方の中にも、似た悩みを抱えている人もいるかもしれない。
そういう私もすべてがぴったり当てはまる訳ではなくても、それぞれの登場人物たちに大いに同意できる部分があり、424ページとなかなかボリュームがあるが一気読みしてしまった。
劇場の支配人の語りを通して著者が伝えたい事は、結局自分で自分を信じていればそれでよいということではないかと思う。
自分で自分を信じる、これはとても簡単なことのように思えるが、現代社会の一員として生きていると、実はそう簡単ではない。
人間にはたくさんの欲がある。どうしても他人に影響されてしまう。慌ただしい日常の中で、日々生きていくことに精一杯で、自分が本当に欲しいものが見えなくなってしまうのだ。
支配人は、「あなたは何が欲しいのか?」と問いかけ続ける。「なぜ必要なのか」「どのくらい必要なのか」「誰のために必要なのか」など、徹底的に問いかけ続ける。
彼の厳しい問いかけに登場人物たちは混乱し、抵抗したり、涙を流したりする。
ずっと他人の価値観に引っ張られ、身動きが取れなくなってしまっていた主人公に、「あなたはこの世界を、それほど信じなくてもいい」と支配人は言う。
主人公は最初はぽかんとして、意味が理解できないのだが、徐々に真の意味を理解し、自己に目覚めていく。
支配人が彼らにしたことは、因数分解のようなものかもしれない。
悩みというものは自分だけで抱え込んでいるとどんどん肥大していき、自らを押しつぶしてしまいかねないほどになってしまうこともある。
でも、分解して一つ一つを紐解いていくと、根本は実にシンプルだったりする。そこをちゃんと解決しなくてはいけない。
人の心には、<子どもの心>と<大人の心>があるそうだ。そして、ちゃんと向き合うべきなのは<子どもの心>なのだという。
純粋な気持ちでやりたいと思ったこと、それをやらなくてはいけないという。
成人して、<大人の心>を優先していくと、<子どもの心>を持つ本当の自分が悲鳴を上げ始めることがある。
その時が来たら、まさにチャンスかもしれない。そこがターニングポイント。それまで感じていた違和感にきちんと向き合う時だ。
新型コロナのパンデミックもその一つのきっかけだ。
コロナパンデミックが起こるまで、これほど移動が難しくなる事態が起こると誰が予想していただろうか。やはり行きたい時に行きたい所へ行くべきなのだ。
この本は、それに気付くヒントをこれでもかというほど与えてくれているように感じる。4年半の年月をかけて製作された本書、時と内容の重さを受け止めながらぜひ読んでみてほしい。
Written by 藤村ローズ(オランダ)