シンガポールは3月28日、「ホーカー」として知られる屋台の料理文化をユネスコの無形文化遺産に登録申請しました。
麺料理やチキンライス、サテーという串焼き料理などが¥300-500くらいの安価で食べられる屋台村「ホーカーセンター」は、地元の方だけでなく世界でも知られており、旅行者にもとても人気があります。
ですが、シンガポールはもともとマレーシアの一部であり、そこから独立した国。もちろんこういうホーカーセンターはマレーシアにもあり、出している料理も同じ類のものばかりです。こういう話が出るといつも、
「マレーシアの屋台料理の方が美味しいし安くて優れている。あたかもシンガポール独自の食文化として宣伝するのはいかがなものか」という異論がマレーシア側から出てきます。
少し前に、シンガポールの屋台が初めてミシュランに選ばれた時も議論が上がり、マレーシアの国民食である「Nasi Lemakナシレマ(ココナツミルクで炊いたご飯に辛い調味料やゆで卵が添えられたもの)」をハンバーガーに仕立てた「ナシレマバーガー」がマレーシアよりも先にシンガポールのマクドナルドで販売開始された時も、SNS上での議論や反発はものすごいものがありました。
また、シンガポール人も、「マレーシアの屋台料理の方が美味しくて安くて優れている」というのは誰もが認めていることのようですが、「シンガポールの方がマレーシアよりお金があるから、世界に対する宣伝やマーケティングが上手なのだ」という論理も見受けられたりします。
これらのマレーシア側からの異論を受けて、シンガポールの国家遺産委員会は、「自国の文化的な慣習が(他国より)優れているとか、唯一無二のものだとか、自国が発祥地だなどと証明したいのではない」と述べ、重要なのは、ある国独自の文化的な慣習がその国のコミュニティーによって尊重かつ保護されるという点だと説明しました。(AFP BB Newsより引用)
こうした2国間の食文化論争は、外から見ているとなかなか面白いですね。
考えてみれば、食のような、広がりやアレンジが繰り返されるものは、常に文化も少しずつ変容しながら受け継がれていきます。
IKEAのミートボールはあたかもスウェーデン料理と思われていますが、元々はトルコ料理から伝わったとか、アメリカといえばハンバーガーだけれど、これもドイツのハンブルグの食べ物だった、など。挙げればキリがありません。
マレーシアに住む私も、新しくオープンしたおでんの店や鯛焼きの店が台湾から来て「台湾オリジナル店が上陸!」という文字を見ると、「日本のものなのに」と複雑な気持ちになったりするのでした。
ソウルフードといいますが、それぞれの国民にとって食べ物は魂のこもったとても大切なものなのですね。
Written by 土屋芳子