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ロンドン現地レポート、ブレグジット前と後の市民生活の変化は?

2020年2月14日
伊藤結子 (イギリス)

2020年1月31日午後11時、47年間加盟していたEUを離脱したイギリス

♪Do you remember twenty-first night of September?
Before you go cold like December
And all you saw a cloudy day♪

9月21日を覚えてる?
12月のように冷え切る前のこと
曇り空しか見えなかったね

これは、私の所属しているLondon International Gospel Choirで今、練習している曲、Kirk Franklinの”September”という曲 です。

イギリスは2020年1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)、47年間加盟していたEUを離脱しました。

もともとは2016年に、国民投票にてEU離脱派側が僅差で勝利してから、3年以上かけて離脱条件の交渉がありました。離脱条件の交渉がなかなかまとまらず、難航しました。メイ首相の退任や、ジョンソン新首相の就任などドラマがたくさんありました。延期に次ぐ延期で、やっとこの日を迎えました。

この国に住む外国人の私は、はじめのうちは、逐一状況を気にしていたのですが、永遠に終わらないかのようにも感じられる交渉過程にいつしか興味をなくしてしまったというのが、恥ずかしながら本当のところです。

今回は気がついたら1月31日を迎えていて「そういえば…ついに離脱するんだっけ」という感じがありました。

 

国際色豊かなゴスペルクワイアのメンバーたちに聞いてみた

ブレグジット直後にちょうど練習があったので、休憩時間にクワイアのメンバーたちにブレグジットの前と後で何か生活に変化があったかどうか聞いてみました。

London International Gospel Choirには様々な国籍のメンバーがおり、それぞれ立場や意見は違います。すでに、ロンドンを出て自分の国へ帰って行ったメンバーとの別れもありました。

私が話した人たちの意見で、共通していることがあるとするなら、「はじめは一喜一憂していたけれど、今は何も感じなくなった」ということです。

メンバーの1人のNさんは、

「職場に奥さんとお子さんがフランス国籍をもっている友人がいるけれど、大切な家族とこれから一緒に住めるのか、住めないのか、それは人生にとっては大きすぎる問題で、その大きすぎるストレス、心が張り裂けそうな状態をこう何年も続けていると何も感じなくなる」と言いました。

「今後の不安も、はじめはあったけれど3年もこの状況が続くと人は考える力を失くすのではないか」と。

「Do you remember? ブレグジットのことがはじまったのは、あれいつのことだったっけね。もうすでに心は何も感じないって感じだよね?」

と、さっき練習していた曲になぞらえてイギリスのジョークが出てきました。こんな時、イギリスの方のちょっと皮肉あるジョーク、言葉づかいはとても上手だなぁといつも関心してしまいます。

「心が何も感じなくなったから私たちはこうして歌いにきてるんだよ」と、ひとりの女性が言いました。「もう歌うしかないような心境なんだよ」と。

 

急な変化はまだないが、日本人にとっては良い点も

2020年の12月31日までは移行期なので、急な変化はまだありません。移行期間は1年か、2年の延長が可能ですが、現状では英国は移行期間を延長しないと表明しています。

移民政策や、貿易に関すること、金融政策など、ヒト・モノ・カネに関することあらゆる協定を結び直さないといけないわけなので、気が遠くなるような作業なのではないでしょうか。

12月31日に移行完了すると言われていますが、移行期間の延長の可能性もあるのではないかと個人的には思ってしまいます。

移民に関しては、ブレグジットの話がはじまったときから年々減り続け、約10%がすでにイギリス国外に出ています。

新たな移民政策では、EU市民の優遇を廃して、技能に基づき滞在を許可する制度に移行していくようです。

個人的には、便利になったことがありました。

英国に出入国の際には、時には数時間にも及ぶ長い入国審査の列に並ぶのが常でしたが、今まで英国人やEU市民のみ使えていたEゲートの導入が決まり、日本のパスポートも使えるようになりました。小さなことですが、ワンタッチで出入国できるようになり非常に助かっています。

他にもオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国、シンガポール、韓国の市民は入国審査がとても簡単になりました。これも移民政策の一環なのだそうです。

貿易に関しても、イギリスは輸出入の4割から5割をEUに依存しています。

昨年の9月に、合意なき離脱が実行されかけた時、EUからの輸入に頼っている生鮮食品や医薬品などの供給が滞るのではないかという恐れが広がり、一部には買いだめをしている市民もいました。

今回は、そのような買いだめも見受けられませんでした。

生活に身近なこととしては、関税率や、生活必需品の供給が滞りなくいくのかということは非常に興味があります。

このような移行期間には、「書類仕事が多くなることにより、雇用を生み出しているのではないか」と、意見している人もいました。そして、「今離脱したけれどやっぱり何十年後かにはEUに再加入することもあり得るのではないか」との意見もありました。

今は、本当に今までと変わらない日常が続いていますが、今年が正念場なのかなと思ったりもしています。あまり混乱がないように期待しています。

Written by 伊藤結子(イギリス)

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