2022年のチャイニーズニューイヤーは2月1日です。
今年は、数年ぶりに人々が家族で集まれる状況のため、ホテルやレストランでは、チャイニーズニューイヤー用のディナーコースやビュッフェを用意。街は赤色一色、おめでたい雰囲気になっています。
チャイニーズニューイヤーに食べるお正月料理といえば、家庭ではスチームボート(鍋料理)が定番ですが、家族で最初にいただくものは、生魚の切り身入りの、和え物のようなサラダにような前菜、イーサンです。
イーサンとは「魚生」と書き、中華系の家庭でお正月に必ずいただくもの。
生の魚(サーモンを使用することが多い)のスライスと、千切りにした野菜やクリスピーなクラッカー、胡麻や胡椒、甘いプラムソースなどを盛り付け、みんなで一斉に箸で高く持ち上げながら混ぜ合わせ、それからみんなでいただきます。
魚生は文字通り「生の魚」を意味しますが、同音の「(余生)豊富な富の意味」と混同されることが多いため、魚生は豊かさ、繁栄、活力の象徴とされている食べ物です。
いただく時は、最初に具材を盛り付けます。その際に「吉祥话(jíxiáng huà)」と言いながら、具材を追加していきますが、その際に、その具材に関連した言葉をかけるのが一般的です。
例えば、魚を入れるときに「niánnián yŏuyú(年年有余)」というフレーズを言いますが、これは中国語で「余る」「豊富」という意味の「yú(鱼yú)」が「魚」と同じ音に聞こえるためです。
このように、具材ごとに関連する「商売繁盛」「五穀豊」などのおめでたい言葉や意味を説明しながら、一皿に全ての具を入れ、その後みんなで一斉に混ぜます。
混ぜる時もおめでたい言葉を唱えながら、高く箸を持ち上げるほど、食事する人の成長の高さに反映されると言われていて、テーブルが汚れるくらい高く豪快に持ち上げて混ぜ合わせます。
このイーサン、実はマレーシアとシンガポール、インドネシアだけで行われている習慣。中国正月の行事ですが、中国や香港では行われていません。
この料理の起源は中国の南部からだそうですが、シンガポールとマレーシアの間でどちらが元祖かの論争があったそう。
1940年代頃、マレーシアのセレンバンにあるレストラン「陆祯记」が広東料理からこの料理を改良し、旧正月に販売したのが最初と言われています。
右下:見た目も食感も本物のサーモンにそっくりなベジタリアンサーモン
この料理は、マレーシアの国家遺産局によってマレーシアの遺産料理として認定されています。
また、1964年、当時まだマラヤの一部だったシンガポールのレストランの厨房で、4人のマスターシェフによって考案されたとも言われています。1964年の旧正月に、1963年9月シンガポールで創業のライワ・レストランでデビュー。
4人のマスターシェフが一緒に、中国の間で繁栄と健康を象徴するものとしてこの料理を作り出しました。4人のシェフは、その料理の腕前と創意工夫から、約40年前にシンガポールの「四天王」と呼ばれるようになりました。
私はホテルのチャイニーズニューイヤープレビューの招待があり、すでに6回イーサンをいただきました。
スーパー等でも保存の効くものが、1セット1000円くらいで売っています。ホテルや中華レストランのイーサンは、3000円から6000円くらいのものが多く、内容も豪華です。
スモークサーモンやサーモンの刺身を入れることが多いですが、中にはアワビ入りや、ソフトシェルクラブの天ぷら、クラゲの和え物が入っていたり。
ソースも甘いプラムソースが基本ですが、よりおめでたく、黄色のソルティッドエッグソースをかけところもありました。
あるレストランではベジタリアンの人も楽しめるように、ベジタリアン用サーモンを使用。大豆タンパクとゼラチンから作ってあるそうですが、これが見た目も食感も本物のサーモンにそっくりで驚きました。
店によってフルーツ多めのヘルシー路線だったり、魚の代わりに生ハムをいれるところがあったりと、既に魚生の意味から外れてますが、いろいろ面白いです。
1年のはじまりにおめでたいイーサン。マレーシアやシンガポールにこの時期に来たら、ぜひお試しください。
Written by 土屋 芳子(マレーシア)