7月から約1カ月、日本に里帰りをした。前回の里帰りは年末年始だったので、「ひさしぶり」とも言えない里帰り。「早すぎるかな」と思ったし、夫と愛犬をエクアドルに残していく後ろめたさもあった。
しかし、仏壇行事になると張り切りすぎてしまう、ひとり暮らしの高齢の母のことが気がかりだったので、お盆の時期にあわせて帰ることにした。
振り返ると、前回の滞在ではひたすら日本のグルメを楽しみ、体重増でエクアドルに戻った。今回は、私の滞在国であるエクアドルと自分の培ったスキルを共有できるイベントをしたいなと考えていた。
ちょうど里帰りを決めたのが、動物由来の食材を使わない「プラントベースフード」のプロコースを修了し、エクアドルで始めた弁当屋も開業から一年を過ぎたところだった。
「料理関連で、私の個性が出せて、みんなで楽しいことをしたい」と考えた結果、エクアドルの料理をビーガン食にアレンジしたレシピを紹介する、「南米風プラントベース料理教室」を開催することにした。
アイディアを思いついたときは、「参加者とおしゃべりしながらクッキングなんて、楽しいかも」なんてワクワクしていたけれど、いざ準備に取り掛かると大変なこともあり、学びの多い経験になった。
私のように将来、帰国や里帰り中に何かやりたいと考えている方の参考になればうれしい。
エクアドルの食文化とプラントベース料理の手法を組み合わせたレシピ
里帰りのおよそ2カ月前。良くも悪くも形から入る私は、詳細を決める前に、まず夫に「料理教室を開催する」と宣言した。私がチャレンジしたいことに決して「NO」と言わない夫は、「100%応援する」と背中を押してくれた。
里帰りするのは私だけで、イベント当日に彼に手伝ってもらうことは何もないが、日本に発つ前にたくさん試食してもらわなければならない。なによりも身内からのサポートはありがたい。
その後、リサーチが上手な地元の友人が見つけたレンタルキッチンを予約し、PR経験のある友人に告知チラシ作成を依頼、そして調理師資格を持つ友人に当日アシスタントをお願いした。
自分で全部やろうと思えばできたかもしれない。でも、私には「どうせ仕事するなら、気の合う信頼できる仲間と一緒にやりたい」という気持ちがあった。
ありがたいことに、みんなは快く協力してくれて、レンタルキッチンのオーナーもとても親切に問い合わせに答えてくれたおかげで、場所と協力者の確保は順調に進んだ。
イベントではエクアドルの食文化とプラントベース料理の手法を組み合わせたレシピを参加者と紹介したいなと考えていた。
何にしようか悩んだ末、エクアドルの代表的な家庭料理のひとつである「セコ・デ・ポョ(Seco de Pollo)」というチキンの煮込みを、鶏肉を使わずビーガン用にアレンジすることに決めた。
それをメインとして、サラダ、デザートなども一緒にクラスで紹介することにした。その試作の写真を使って広告を作ってもらい、私個人のFBやインスタグラムで告知したところ、ありがたいことにすぐに満席となった。
「クラスも満席になったことだし、さらに練習してレシピを固めるぞ!」と意気込んでいたところ、エクアドル政府の経済政策に不満を持つ先住民グループ主導のデモが起こった。
大きな混乱は首都のキトで起こったが、暴動に伴う道路の閉鎖などで私が住むグアヤキルへの物流が滞ってしまい、料理で使うトマト、パクチー、玉ねぎなどが手に入らない、たとえ入っても値段が高いという状況が2週間ほど続いた。
そんな食糧難の間でも、バナナの棚だけはいつも通りに商品が並んでいて、あらためて「エクアドルのバナナの生産量の多さ」を実感した。
その後、徐々に流通が戻り、難なく食材が入るようになったのは帰国予定日2週間前。その頃には私も出発前の雑務に追われ、練習ができたのは3回ほど。
夫からはフィードバックをもらっていたが、まだまだ自分なりに合格点ではない。焦る気持ちもあったが、帰国してからイベント開催日までも2週間ほどあるので、その間に練習することにした。
日本に戻った後も、ちょっとしたハプニングはあった。沖縄でも手に入る食材を考慮に入れてレシピを考えたつもりだったが、メイン料理に使うパッションフルーツジュースがなかなか見つからない。
以前は地元のスーパーや市場にあったのだが、マンゴー同様、今ではすっかり観光みやげの高級品になってしまったようだった。何軒かまわった後、観光客に人気の店でようやく100%パッションフルーツジュースを手に入れることができた。
また、コロナ感染者の急増で沖縄の医療現場が窮迫してきたことから、開催2日前に、4人以上の会食や大規模イベント開催の中止・延期を呼びかける「医療非常事態宣言」が出た。
私のイベントは会食でもなければ、大規模なイベントでもない。判断は難しかったが、「当日キャンセルでも全額を払い戻す」という条件で参加者の判断にお任せし、イベントは開催することにした。
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