新学期が始まって二週間、ティーンエージャー真っ盛りの仏頂面の長男が迎えの車の中でぼそっと告げた。
「僕、もう数学落とすから。」
ガーン!!愕然とした心境をひた隠しすべく、あくまでさりげなく「ふーん、そうなの?どうして?」と聞いてみる。するとさらにぶっきらぼうに、
「だってすごくつまらないんだ。全然楽しめない。だいたい数学を選択したのはお父さんがうるさいからだもん」とのこと。
ここで頭をかしげているであろう読者の皆様にイギリスの教育制度をざっくりとお伝えしたい。
息子は16歳。今年の9月からシックスフォーム(Six Form)という学校のシステムに入り、これから2年間「A level 」を勉強する。なんとこのA level というシステムでは学生たちは3科目を選択するのみなのだ。
これから2年間、この3科目のみをがつがつ勉強し、18歳の大学進学を前に全国共通のA levelを受験する。その結果によって本人が希望する大学に入れるか入れないかが決まってくる。
例えばA大学の「経済学部」に入りたいとするならば、ほとんどの学生は数学や経済などを選択するであろう。「体育、美術、ドラマ」のA levelを選択した学生は不合格となること間違いない。
そしてもう一歩先に行き、将来の就職希望先であるA銀行、例えばファイナンスアナリストなどの職種で就職活動をする場合、大学で経済学、財政、会計を選択した学生が優勢される事になる。
よってA levelでどの科目を選択するか、は今後の人生を左右する重要な決め手となる。
GCSE結果発表の日に友人たちと喜ぶ
数学が苦手でもなく、なんとなくぼやっと「将来は金融関係もいいなぁ」と思っている息子に、「是非とも選択科目の一つに数学を」という両親の願いはなかなか伝わらない。
大体、このような人生に関わるような決断を16歳に強いるのはいかなるものか。筆者は不思議に思うのであるが、これがイギリスの代々伝わる教育システムらしい。
受験の「山」は2回訪れる。16歳で受ける「GCSE」と18歳で受ける「A level」という、全国共通の公的試験である。
GCSEはどの学校も最低5科目は教えなければならない。数学、国語(文学/言語)、理科(化学、物理、生物などから最低2科目)である。
進学校である公立や私立の学校に通う学生たちはこれに歴史、宗教、地理、古典、第2外国語なども選択し、受験する。
A levelとなるとさらに選択科目の幅も広がり、GCSE科目に加えてドラマ、美術、スポーツ、経済、政治、心理学、ビジネス。。。と無数の科目から3科目に絞って2年間勉強する。
大学申請の際には、このGCSEの結果と共にA levelの結果が重要となる。日本のように各大学が独自の試験を行うわけではなく、A levelの結果や面接で合否が決まるのだから、このA levelの科目選択の重要性はおかわりだろう。
よってこの時期、16歳の子供を持つイギリスの家庭では「自分のことは自分で決める」がモットーのティーンエージャーと、大学進学、そして将来の就職まで考えて助言しようとする両親の間に静かなバトルが繰り広げられているのだ。
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