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アゼルバイジャン・コーカサス山脈のスキーリゾートに見る光と影

2021年12月18日
岡田環 (アゼルバイジャン)

アゼルバイジャンのスキーリゾート

「僕は1998年の長野オリンピックに、アゼルバイジャンで初めてのスキー選手として参加したんだよ。まだ10代だった。日本では良い思い出が本当にたくさんあるよ」

秋の終わり、シーズンの初めにスキー板を買おうと向かった専門店で、商品の説明の後、そのひとは懐かしそうにそう言った。

「この国でスキー板を自分で買おうという人はそんなに多くないからアドバイスをするのはとても楽しいんだ」そう張り切って言う彼の店は、初心者用の入門編から、ちゃんと上級者好みの板まで揃っていて、なかなか凝った品揃え。

丁寧にそれぞれの板の特性や、滑りのスタイルについて解説してくれた。「アゼルバイジャンの山を楽しんでくれてうれしいよ」彼は最後にそう言ってにっこりとした。

砂漠の国のイメージのあるアゼルバイジャンだけれど、ここはコーカサス山脈に連なる山の国だ。

実はスキー場が3つある。大きいのは北西部に位置する、シャフダーとトゥファンダーの2つのリゾート。

この2つは、距離にしておよそ3、40kmといったところだけれど、急峻な峰々に阻まれているため、直接互いを行き来することはできず、バクーからそれぞれ別のルートでアクセスする。どちらも車で、3〜4時間かかる。

アゼルバイジャンでは、主要都市間の高速道路が整備されているので、わりと快適なドライブを楽しめる。

山あいに入ると、村々をぬって走る細いが続くので、運転は少し大変なものの、山の美しい眺望と、人々の暮らしが垣間見られる景色の中を、走ってゆくのはなんとも心楽しい。

3つ目のリゾートは、飛び地を挟んだ向こう側、イラン・トルコ・アルメニアと国境を接するナフチヴァン自治州にアグブラク・スキー場。

こちらはごくこぢんまりとしたスキー・リゾート。訪れるのは、地元の人がほとんどという感じで、ホテル代もリフト代もレンタル代もとてもリーズナブル。

でもここはノアの方舟の伝説の土地、古くから様々な言い伝えの残る峰々の一部で、スキーができるというのもまた感慨深い。バクーから飛行機に乗って、雪の季節にやって来るのも、ロマンがあって素敵だと思う。

 

アゼルバイジャンにおけるウィンタースポーツ事情とは

東京都と同じくらいというアゼルバイジャンの人口を考慮すると、なかなかのスキーリゾートの充実ぶりだと思う。

けれども、あのオリンピアンのスキー用品店の店主が、多少がっかりしているように、ウィンタースポーツの普及度はそれほど高くはない。

例えば、前述のシャフダーのスキー場には、瀟洒なリゾートホテルが4つも整備されていて、冬の休暇シーズンには大勢の家族連れが訪れる。けれども、そのお目当ての多くは、山の雪景色を楽しむこと。

バクーなどでも、冬のごく冷える時期には降雪もあるけれど、切り立ったコーカサスの峰々にたっぷりと雪の積もる冬の景色はまた格別、きらきらとした銀世界は、憧れの観光地なのだ。

人々は、連れだってぎゅうぎゅうに自家用車に乗り込み、雪山に出かける。そこでの楽しみは、ゴンドラで頂上まで登り、その絶景を家族で写真に収めたり、山のカフェでお茶を楽しんだり、麓でちょっと子どもたちと雪遊びをしたり。

もちろん、レンタルのウェアや、ギアも揃っているので、ばっちりと全身取り揃えて、初心者コースに挑戦するファミリーもいる。しかしながら、海外のスキーリゾートと比べると、熱心なスキーやスノーボード人口さほど多くない印象で、やはり外国人の駐在員家族の姿が目立つ。

また、地理的な近さからも、北コーカサスのロシア人観光客も多い。だから、耳に入ってくるのも、アゼルバイジャン語の他に、ロシア語、英語をはじめ、なかなかに多彩で、インターナショナルな雰囲気がある。

次のページ高級リゾートに垣間見える、この国の格差と未来

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