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アゼルバイジャン・コーカサス山脈のスキーリゾートに見る光と影

2021年12月18日
岡田環 (アゼルバイジャン)

高級リゾートに垣間見える、この国の格差と未来

「大統領はスキーが好きだからね、腕前もなかなかだよ。夫人もグサール(スキー場の麓の町)の出身だしね、アゼルバイジャンのスキー場はなかなか立派だと思わないかい?」オリンピアンの彼が、誇らしげに言っていたのを思い出す。

この国のスキー場の規模はさほど大きないものの、滑走面はいつもきちんと整地され、人工降雪機は何台も整備されていて、快適さはヨーロッパのスキー場にもひけをとらないほど。

山の頂上に高速で運んでくれるゴンドラや、快適な6人乗りのリフトなど、最新鋭の機器を完備していて、とても快適に楽しめる。

けれどもやはり、滑走で利用する人が少なく、多くは観光で訪れた人々が、それぞれ、一日に一往復乗るくらいなので採算が合っているのか、不安になってしまう。

でもそんな私の余計な心配をよそに、手頃な値段のリフト券で、丁寧に世話をしてくれる従業員を多数配置して、シーズンの間は毎日運行している。

これは国策として、リゾート整備に力を入れているせいなのだろう。アゼルバイジャンの観光地のインフラは、見栄えが良くて快適に整備されていて、リゾートまでの途中で垣間見る村の景色とはずいぶんと違っている。

そのふたつの差異もまたこの国の顔の一面だと私は思う。スキー場を訪れる人々も、古いソ連車にぎゅうぎゅうに乗ってくる大家族もあれば、高級な欧州車に乗りおしゃれなウェアを身に着けたスキーヤーたちがいたりもする。

それがまさに、この国の姿を映し出していて私には興味深い。

朝、麓の村々を通ると、何台もの乗合バスに遭遇する。リゾートで働く人々の通勤バスだ。冬の農村の雇用を作り出しているのだろう、その車両はいつもぎゅうぎゅうで詰めで走ってゆく

一度、ゴンドラの停留所に隣接したカフェで、年代物のコートを着込んだ年配のご夫妻と一緒になったことがある。「息子がここで働いているんです」彼らは誇らしげに私に語った。

しばらくして、レスキュー隊員の装備をつけた若者がにこにこと小走りにやってきて、私に英語で説明してくれる。「今日やっと田舎のお父さんとお母さんを招待できたんだ!」

見渡せば、私たちのテーブルの周りに座っているたくさんの家族連れも、外国人らしいスキーヤーたちも、きりっとした制服のウェイターたちも、一様に明るい空気を纏っている。

多少いびつな不公平さを包含しつつも、皆が発展という方向を向いているこの国を象徴するかのような景色だと、私は思った。

Written by 岡田環(アゼルバイジャン)

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