「毎日約9人」。これは、オーストラリアで自ら命を絶つ人の数。
2020年には約3100人もの人が自ら命を絶ったと言われており、自殺未遂に至っては約65,000人にも上るそうだ。
「オーストラリア」と聞くとたくさんの人たちが思い浮かべるであろう、青い海や燦々と降り注ぐ太陽の光。日本の国土面積の約20倍を持つ巨大大陸の上に広がる荒野を駆けるカンガルーや、ユーカリの木の上でのんびりと昼寝するコアラ。
こんな「のんびり」「開放的」を絵に書いたようなイメージを持たれている国でも、年間たくさんの人たちが自ら命を絶っている実状があることに驚く人も多いのではないだろうか。
日本の自殺者数に比べるとその数はかなり少なく見えるのだが、オーストラリアの総人口は約2,600万人ほど。
日本の人口と比べた場合、そんなに少ないとも言えない気がする。
いったい何がこの国の人達をそこまで追い詰めているのだろう。
自殺に追い込まれる理由は人それぞれ違うけれど、ここオーストラリアでは、トラウマ、精神疾患、身体的障害、薬物及びアルコール中毒、生活苦や長年にわたるストレスなどが主な理由として挙げられている。
年齢層では、15歳から44歳の年代に自殺が多いそうだ。
また、自殺を選択してしまう人達の中にはLGBTQI+の人々や、オーストラリア原住民の人々も多くいると言われている。
自分のセクシュアリティーに悩み、誰にも悩みを打ち明けられず精神的に追い詰められてしまい、死を選んでしまう若者たちもいると聞いたことがある。
オーストラリア原住民の自殺者数に至っては、2017年の統計では、非原住民の自殺者数の2倍にも上るそうだ。
数年前のことだが、知り合いのオーストラリア人の女性が、娘さんのことでかなり悩んでいたことがあった。
当時15歳か16歳だった彼女の娘さんは、学校でいじめに遭っていたそうだ。クラスメートから送られてくる誹謗中傷メッセージや、自殺を勧めるようなメッセージに、彼女の娘さんは自傷行為を繰り返していた。
その娘さんが4歳くらいの時に時々遊んであげていたのだが、彼女が小学校に上がる頃には私はその町を出たので、彼女の小さい頃を思い出し、そんな状況に陥っていることにショックを受けた。
また最近久しぶりに訪ねると、現在彼女はご両親から独立し、たくましく人生を歩んでいると聞き、彼女を誇らしく思った。
見せてもらった写真の中で微笑んでいる彼女は、黒いジャケットとパンツに身を包み、きりりと結んだネクタイとベリーショートの髪がよく似合っていた。私と遊んでいた当時の面影が残る笑顔に、なんだか安心感を覚えた。
現在オーストラリアでは、自殺防止やメンタルケアへの取り組みが積極的になされている。
Suicide prevention/自殺防止を掲げるサポート団体の存在や、精神疾患をもっと知ってもらうための啓発活動が行われている。
毎年9月の第2木曜日は、「R U OKAY? デイ」とされている。自分の周りで元気をなくしている人達に「大丈夫?」と声を掛けようという目的で制定された日だ。
自殺未遂体験者や精神疾患を持つ人々が自分自身の体験を生かして、苦しんでいる人達をサポートする「Peer support」という制度もある。
メンタルヘルスサポートワーカーとして働いて早4年。日々、精神疾患を持つ人々と触れ合いながら、自殺や精神疾患を食い止めるサポートがもっと発達することを心から願う。
Written by 野林薫(オーストラリア)