パンデミックの大混乱もほぼ完全に終息を迎えた雰囲気が漂っているオーストラリア。
私が住むシドニーは初夏を迎え、爽やかな陽気の中、街やビーチはかなりの賑わいを見せている。
シドニーが世界に誇る「世界一美しい自然港」と呼ばれるシドニーハーバーにはひっきりなしに巨大クルーズ船が入港し、オペラハウス周辺ではスーツケースを転がして歩く観光客の姿が急激に増えた。
サーフボードを使った海難救助の発祥の地ボンダイビーチでは、楽しげにおしゃべりしながら歩く、ヨーロッパ人のバックパッカー達も見かけるようになった。
私達住民もなんの制限もなしにレストランやカフェで食事したり、公園の芝生やビーチでのんびりしたりと、パンデミック前の生活をほぼ完全に取り戻した喜びを噛みしめている。
そして去る10月14日、オーストラリアはコロナウイルス感染における自己隔離義務を撤廃した。この規制解除によって改めて、「あぁ、ようやく以前の生活に戻ったんだ」と安堵した住民はかなり多いのではないだろうか。
でも実はパンデミック前の生活と今の生活を比べてみると、結構変わった点がいくつかあることに気がついた。
今回は私が一番気に入っているその「変化」を紹介しようと思う。
パンデミック前は、具合が悪くなってドクターの診察を受ける場合、最寄りのメディカルセンターに足を運ぶのが当たり前だった。
体の調子が悪いのにもかかわらず、パジャマから服に着替えメディカルセンターに赴く。予約して行ったにもかかわらず待合室で結構待たされる。これがパンデミック前の「当たり前」だった。
しかしパンデミックになり、すべての医療機関は厳重な感染防止対策を行うようになり、特にコロナの症状が出ている患者は病院やメディカルセンターには絶対に来ないように注意を促していた。市民も感染を怖れて、病院に行くことを良しとしなくなった。
ここで一気に普及したのが、Telehealth(テレヘルス)である。
Telehealthを受けるには、まずメディカルセンターのウェブサイトから診察予約を取る。すると、診察予約当日にメディカルセンターからビデオコール用のリンクがスマホに送られてくる。
予約時間になるとドクターから直接ビデオコールがかかってくるというわけだ。
約一年前、右目に感染を起こしてしまった私は、その時初めてTelehelthというものでドクターの診察を受けた。
部屋着のままソファーに座ってドクターからかかってきたコールを取り、リラックスした気分で診察してもらう。ドクターの指示によりスマホを自分の右目に近づけて、ドクターに患部を診てもらった。
診療が終わると、ドクターからe-Script (電子処方箋)のQRコードがスマホに送られてきた。
私はすぐにスマホ片手に部屋着のまま近所のドラッグストアに行き、そのQRコードを見せて薬を買って終了となったわけだ。
健康が取り柄の私はドクターの診察が必要になることは滅多にないのだが、自分の部屋で診察してもらえるリラックス感とお手軽感に、すっかりTelehealthの大ファンになってしまった。
パンデミックの期間は色んな混乱や不便があったけれど、でも、くぐり抜けてみるとパンデミックがあったからこそ進化しているものもある。
私にとってポストパンデミックとは、人類の文明の進化が急速に勢いを増していく時代の幕開けな気がする。
大変な時期を乗り越えたこの世界の「これから」に、なんだか目が離せない私である。
Written by 野林薫(オーストリア)