ブリュッセルのFine Art Museum にて娘達と
私は「茶道もしているし、着物を着ることは当たり前のこと」と思われがちですが、実は海外で着物を着たのは、茶道がきっかけではありません。
物事は多くの点が結びついて線になるといいますが、まさに私の着物物語は、点と点が結びついた結果なのです。
東京に住んでいた頃、縁があって陶器ギャラリーを経営していました。
海外に出て「日本の陶器って、素晴らしい!」「一つ一つがオブジェみたいでかっこいい!」と改めて日本の文化の深さに気付いた時でしたから、若い作家さんの作品をもっと紹介して、当時比較的高価なイメージだった日本の陶器を、日常で気軽に使えたらとのコンセプトでした。
しかし、予想に反して焼物通のお客様に囲まれる日々。そこでまず学んだのは、「茶道のお約束を知らないと、陶器は語れない!」ということでした。
そこで、「怖そうな茶道の世界だけど、楽しい先生もいるだろう」と、電話のお声が一番明るかった先生の元へ通うことに。建築家を目指す女性が多かった歳の近い弟子仲間に囲まれながら、和菓子を楽しみに茶道の稽古をすることになりました。
茶会や茶事のために着物を着始めるも、母も着物派ではなかったし、着物を着るのは一苦労で、着付教室に通ったものの、不器用な私の多大な努力虚しく、自力ではほぼ着られませんでした。
茶道の先生の「茶道の着物は写真撮影用ではないの。きれいに着れなくてもそのうち慣れてくるから、きれいにしようと思わずに着れば良いのよ」という励ましだけを信じて、「上手に着れなくてもよし」と無理やり納得しながら、どうしても着なくてはいけない時だけ着物を着るというスタンスでなんとか過ごしていました。
娘の七五三にて
やがて、東京での茶道の稽古が終わる時が来ました。陶器ギャラリーもあっという間に7年の一区切り、人に任せることができて、次の新たなる仕事で香港へ行くことに。
一人暮らし、海外で仕事。茶道や着物、すっかり日本の伝統は忘れて、湿気の多い香港へは着物は一枚も持って行かず。次の転勤先シンガポールでも、すっかり着物の存在を忘れていました。
そして、結婚してから三度目の転勤先メルボルンでのこと。北京で行われる、会社のグローバルコンフェレンスへの夫婦揃っての招待状が届きました。
「小さな子供もいるのに北京へ?私はパスでいいでしょ?」が私から出た最初の言葉です。ところが、外国の会社でのパーティーに婦人が同席しないというのはあまりありません。パーティーは、夫婦単位なのです。
オーストラリアでは、会社の夫婦同伴のパーティーは多かったので参加はしていましたが、パーティーは苦手でした。
背が高く、スタイル抜群の女性達の前では、小さな私が頑張ってヒールを履いて、素敵なドレスを着ても、あまりパッとしません。足腰が強い西洋人は立食パーティーが好きで永遠と話をしているし、話の間に入っていくことにもとても慣れています。
こちらは聞くのがやっとで話への貢献へはほど遠く、すっかりパーティーの壁の花。発言しない人、おとなしい日本人の図です。
高いドレスを買うものなんだかもったいない気がして、「実家にある着物でも着ようかな」と気持ちを切り替えます。
パリファッションウィークにて、着物を着てくる条件で招待を受ける
持っていた着物は実家で「箪笥の肥やし」と化していましたから、親に頼んで全部送ってもらいました。
桐の箪笥がないことが気になりましたが、現地の日本人の着物好きの方に聞いてみると、プラスティックの箱に湿気剤、防虫剤で十分とのこと。
着付師にお願いして、自分で着られる着付の特訓を受け、北京へのパーティーへ挑みました。
今思えば、キレイに着れたとはお世辞にも言えませんでしたが、ここは海外の強み。着物ポリスがいないので、誰もわかりません。自分で着られたことで大喜びでした!
そうすると、2400人以上いた大きなパーティーで、会社トップのCEOから「着物いいねえ」と声が掛かりました。まだ主人も直接話をしたことがなかった雲の上の人物です。
多くの方から「これが着物?初めて見たわ」「これが帯っていうの?この刺繍、素晴らしいわね」「私も日本が大好きなの!」と会話が弾みました。
私は、何も変わっていない。着物を着ただけです。「着物ってこんなにパワーあるの?凄くない?!」これが、私を着物に開眼させるきっかけになったのです。
これをきっかけに、「着物着るなら茶道復活しようかしら?」と稽古を再開することに。海外での着物は、パーティーでの私の敗北感からの復活劇なのです。
左上:ブリュッセル警察の方も思わず笑顔、右上、下2枚:パリファッションウィーク
ご実家に着物が箪笥の肥やしになっていらっしゃる貴方!!着物の処分に困っていらっしゃるご親戚がいらっしゃる方、是非是非、一枚、海外のお家に持ってきて、ぜひ、パーティーやレストラン、美術館などへのお出かけてで着てみてください。
盛り上がること間違いなしです。補償します。メルボルン、パース、ヨハネスブルグ、ブリュッセル、南フランス、パリで、すでに実践済みです。
私も今年の1月に着物で娘達との写真撮影を計画していたのですが、あいにくの雨のベルギー・ブリュッセル。苦肉の策でミュージアムでの撮影を思いつき、日を変えずに決行。
このミュージアムでは着物がしっくり。着物はまるで歩くアートのようで、アート鑑賞中のお客様からも大注目。娘達は「みんなが見てる」と言って恥ずかしがっていたほど。(トップの写真)
皆様の街での着物の反応も是非お聞かせ下さいね。
TEA & KIMONO 着物のコーディネート、出張茶道, 茶会イベントにご興味のある方、お気軽にDM下さい。お待ちしています。
Written by ホーゲデウア容子(ベルギー)