日本のワーキングマザーの友達たちから「体力的にしんどい」「子供と向き合う時間が取れない」「子供が病気の時に休むのが大変」「仕事にも全力投球できない」などといった悩みをよく聞く。
オランダのママたちにも上記のような悩みがまったくないかというとそうではないが、子供の幸福度世界一のオランダでは、日本のママたちほど悲痛さは感じない。
そのキーワードとして考えられるのは、前回にも書いた「ワークシェアリング」。オランダでは、多くの母親たちがパートタイム勤務をしている。
日本でパートタイムというといわゆる「パート」、時給計算で働く働き方をいう場合が多いが、オランダでは正社員として週35時間以上勤務する「フルタイム」に対して、それを満たさない「パートタイム」の働き方を示す。
多くの人は、週4日フルに働いて1日他の人より休みを多く取る勤務形態、人によっては1日の勤務時間を短くする場合もある。もしくは週3日など、もっと少ない時間で契約する人もいる。
2021年の調査ではオランダでは47%の労働者がパートタイムで働いており、この割合は2013年からほとんど変わっていない。
オランダでパートタイム勤務を選択するのは女性だけでなく、もちろん男性もいる。しかし、女性の割合が70%に対し、男性は28%。やはりオランダでも女性たちが労働時間を減らしている割合が高い。(参照:NL TIMES)
その期間は子供がかなり大きくなるまで、高校生のお母さんでも子供のためにパートタイム勤務にしている人もいると言ったら驚く人も多いのではないだろうか。
女性にパートタイムが多いのは、仕事をしながらも母親として子供の世話をしたいという人が多い。つまり所得より自由時間を選ぶという文化がオランダにはある。
パートタイム勤務になると労働時間が減るので、もちろん収入も減る。
契約にもよるだろうが、フルタイム勤務が週40時間の会社の場合32時間勤務になるので、単純計算で給与は80%となる。それでもパートナーの収入と合わせて、十分だと考える人が多い。
その背景として、オランダでは共働きが前提となっているということがある。
オランダのCentraal Planbureau(CPB)によると、2018-2021年のオランダの総年収の中央値は37,000ユーロ(約520万円)。家族で生活していくには、一本の大黒柱では少々心許ない額かと思う。
また、全国最低賃金は2023年1月現在21歳以上の月額総支給額は1,934.40ユーロ(年間23,213ユーロ、約330万円)と設定されているが、この額では2人でフルに働いてやっとという状況だろう。
オランダに限らず他の国でも、夫の帯同中以外で「専業主婦」というママ友はほとんどいなかったので、逆に平均的な収入世帯で「専業主婦」の選択肢がある日本が逆に特殊なのかもしれない。
オランダ人と結婚した日本人女性から、「出産後なかなか仕事に戻らないことを夫に言われる」という話は耳にするし、そのことをきっかけに離婚に至ったカップルもいるほどだ。
オランダは春真っ盛り。ラッパ水仙が満開!
このように、オランダ人にとって共働きの前提はとても大切なものであり、その前提があることによって柔軟な働き方が実現している。
そのことによって家族全体としての幸福度が上がり、前述のように子供の幸福度の高さが実現しているのだろう。
ただ、パートタイム勤務にも課題はあり、労働時間は減っても労働量は同じままなので、結局自宅で補っているという話も聞いたことがある。
周りの理解も必要で、私も仕事相手のオフの日を把握しておき、できるだけその日以外にタスクをアレンジする。緊急な対応が必要な場合に困ることもあるが、残っている人でベストを尽くしてもダメであれば仕方ないという空気がある。
外注先の人がフルタイム勤務と分かった時は正直ほっとするが、フルタイムの人でも有給休暇は度々入るし、いない間の代役を立ててくれていたらそれほど影響は感じない。
このように、女性自身が優先順位をきちんと決め、パートナーとしっかりコミュニケーションを取ることによって、ワーキングマザーの悩みはもう少し軽減されるのではないかと感じている。
「なかなか夫の協力が得られない」という話もよく耳にするが、これには長時間勤務が常態化している日本の働き方が大きく影響している。これを変えていくためには女性が声を上げ、実際に動いていくことが必要だろう。
そういう意味で、「ワーク・ライフバランス」を提唱し、女性だけでなく男性の働き方を根本から変え、企業としてより成長できる経営戦略をコンサルティングする会社を立ち上げた小室淑恵さんの活動は素晴らしいと思う。
もう10年前の演説になるが、何度見直しても勇気をもらえる小室さんのスピーチをぜひ見てみてほしい。
Written by 藤村ローズ(オランダ)