オーストラリアが世界に誇るビーチと言えば、やはり「ボンダイビーチ(Bondi Beach)」。
突き抜ける青空と濃厚なブルーの海。海岸ではビキニやピチピチの海パンを身に付けた人々やトップレスの女性達が日光浴を楽しんでいる開放的なビーチ。
自分自身を「ボンダイガール」と呼ぶ、ビキニ姿のかわいいおばあちゃん達も、砂浜でびのびと太陽を浴びている。
そして、海岸沿いの歩道に目を向けると、鍛え上げた肉体と美を誇示しながら闊歩するモデルや芸能人達が、ボンダイビーチのステイタスを爆上げしている。
ボンダイビーチはオーストラリアのビーチカルチャーを象徴するビーチとして崇められ、愛され続けているビーチなのである。
透き通るようなターコイズブルーや濃厚なブルー、真っ白なレースを連想させる白い波が混じり合うボンダイの海。
ちょっと余談だが、Apple社のパソコン初代iMacのブルーは「ボンダイブルー」と名付けられていたことを覚えているだろうか。
ボンダイの海はいつ眺めてもうっとりしてしまうのだが、実は過去にはかなり汚染されていた事実がある。
周辺の住宅街からの汚水をそのままボンダイの海へと垂れ流していた当時。
海に無数に浮かんでいた人糞が、Bondi Cigars (ボンダイシガーズ/ボンダイ葉巻)と名付けられ、これがボンダイを象徴する風景、匂いとなっていたのである。
現在の息を呑む美しさからは、とても想像もできないような汚い海だったのだ。
さて、もうひとつ、現在ボンダイビーチの自由で開放的な風景からは想像がつかない過去がある。
1940年代から1960年代まで、オーストラリアのビーチでは「公共のビーチで肌を晒すことは違法」とされていた。
男性はランニングと膝上のゆったりとした短パン、女性もワンピースタイプ、しかも膝上までの長さがあるものを身に着けることが条例で決められていた
そんな状況の中、1951年にある女性が上下が分かれた水着を着てボンダイ・ビーチに現れた結果、逮捕されるという「Bikini Arrest事件」へと発展した。
これが「Bikini Arrest (ビキニアレスト)」と呼ばれ、伝説になった逮捕劇だ
Bikini Warsとも呼ばれるこの時代、ビキニを着て自由を謳う女性達の多くが批判の嵐を浴びていたなんて、現在のボンダイビーチから誰が想像できるだろうか。
ボンダイビーチを眺めるたびに、激しい批判の嵐の中で自由を勝ち取った彼女たちに畏敬の念を感じてしまう。
いろんな過去をくぐり抜け、現在では世界中から観光客を引き寄せる、オーストラリアの象徴と言えるビーチへ変貌を遂げたボンダイビーチ。
日光浴やマリンスポーツだけでなく、毎年開かれる野外アート展、Sculpture by the Seaの開催場所にもなっているボンダイビーチ。
インスタ映えするフードを提供するカフェやアイスクリームショップ、ヴィーガンレストランやパブなど、様々な人々の期待に応えるボンダイビーチ。
日光浴やマリンスポーツに興味がない人々でさえも存分に楽しめるボンダイビーチは、Diversityと自由を誇る、オーストラリアのスピリットが宿る場所なのである。
※ロコタビでシドニー観光ガイドとしても活動しています。
Written by 野林薫(オーストラリア)