その中で私が気になったのは、第五福竜丸の悲劇もさることながら、実験の場所として使われていたマーシャル諸島の被災についてです。
住民はラグーンで魚を獲り、椰子やパンの実などを採取して暮らしていましたが、「人類の福祉と世界の戦争を終らせるため」という名目で、米軍により住民達は他の環礁への移住を強いられました。
ところが、思うように食料も手に入らず、約束したアメリカからの援助も得られず困窮したと言います。
水爆ブラボーの実験が、マーシャル諸島全域にもたらした被害は、想像以上のものでしょう。
今ではビキニ環礁は、海底に沈んだ船や巨大なクレーターなどの核実験の証拠を保持し、核時代の夜明けを象徴しているとして、2010年7月にユネスコの世界遺産に登録されています。
マーシャル諸島は、第二次世界大戦以前は日本が統治していたこともある場所です。
その美しい光景とは裏腹に、放射能による直接的被害に留まらず、住民に対する差別、故郷を奪われ安住の地がない不安、不十分な補償や支援、健康問題といった数々の目に見えない問題によって、生活が踏みにじられています。
その上、今、マーシャル諸島は気候変動による海面上昇で水没の危機にも瀕しています。
人間が作った兵器が及ぼす悲劇のみならず、自然との闘いも強いられる、そんな場所がマーシャル諸島だと思うと、胸が痛くなります。
第五福竜丸の船員達も、同様の差別を受けながら生きる人生でした。「ただそこで一生懸命、漁をして働いていただけなのに、なぜ?」という問いに、誰が答えをくれるのでしょうか?
今では原水爆のない世界へ、色々な人が声を上げています。それでもなお、今この瞬間に戦争をしたり、兵器実験をしているところがこの地球上にあります。
武器を作って戦争するのは、人間が行っていることですから、そこに意思があれば止めることはできます。
その上で、私達の手ではコントロールの利かない自然や環境の問題にいかに向き合っていくのか、それを一緒に考え取り組んでいくことが、人として求められているのではないでしょうか?
展示館訪問は70年前に起こった悲劇に思いを馳せつつ、人類の未来を豊かにしたいと強く願う一日となりました。
【都立第五福竜丸展示館】
WEB:http://d5f.org/access
住所:東京都江東区夢の島2−1−1、夢の島公園内
TEL:03-3521-8494
Written by 岩井真理(日本)
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