今年の流行語大賞にノミネートされた「親ガチャ」という言葉をご存知でしょうか。
この言葉は、ガチャと呼ばれるカプセルおもちゃやくじ引きになぞらえてできたもので、子供は親を選べない、家庭環境は運次第ということを意味します。
若い人達の間で流行ったこの言葉は、子供~若い世代が直面している格差問題を突きつけているとニュースでも時々取り上げられていますね。
今回紹介する本の著者、岸田奈美さんは現在3人家族。
中学2年生の時に大好きなお父さんが心筋梗塞で急逝し、高校1年生の時にお母さんが突然大動脈解離を発症。一命はとりとめたものの下半身麻痺による車いす生活に。4歳年下の弟さんはダウン症で知的障害があります。
字面だけみると、思わず「人生ハードモード、、、」と呟いてしまいますし、親ガチャで言うと、「えらい詰め込んだの来た」と面食らって途方に暮れてしまいそうです。
本書は岸田家の日々をつづったエッセイですが、描かれている岸田家の面々に悲壮感は全くありません!それどころか、吉本新喜劇を見ているかのようなコミカルな日常が繰り広げられます。
著者が持つ最大の武器、お父さん譲りの「ものごとを面白く捉える思考力」が岸田家が新喜劇になりうる要因で、その表現力に読者は思わず笑ってしまうのです。
「えらいこっちゃ~」とか「旦那死んどるんやで、きっついわ~」なんていう関西弁の会話のやりとりも、笑いに拍車をかけてきます。
そして、それ以上に惹きつけられるのは本書にちりばめられた「愛」。
いつも面白い事を言ってたお父さんとの思い出、泣き虫のお母さん、泰然自若とした弟さんと著者のやりとりは揺るがない愛があります。
お互いがお互いを一番に考えていることがわかるんですよね。愛があって面白い家族。だから、ちょっと岸田家が羨ましく思えてきます。
でもそれは、著者と家族が一生懸命、前に進んできた結果でもあります。面白く捉える能力があるという事は、決して痛みに鈍感という事ではないんです。
「パパなんか死んでしまえ!」がお父さんとの最後の言葉になるなんて、どれほど苦しい思いをしたことでしょう。
「生きてるのが辛い、もう死にたい」という絶望の淵にいるお母さんに、まだ女子高生の著者がどんな気持ちで「ママ、死にたかったら死んでもいいよ」の言葉をかけたでしょう。
バリアフリーでない街中や障がい者にとって非常に限られた選択しかできないことに、何度憤り疲れたことでしょう。その都度、岸田家はハードモードを試行錯誤して乗り越えてきました。「面白がる力」と「愛の力」で。
親ガチャ、肉体ガチャ、寿命ガチャ。自分の力ではどうしようもできないことに直面することは誰にでも起こり得ます。
自分の人生を前に進めていくには何が必要でしょうか?助けを求めたら、差し出される手があるに越したことはありませんが、もしかしたら「面白がる力」や「愛の力」が一助になるかもしれません。
そんなきっかけくれるこの本は、11月30日までKindle Unlimitedで無料で読めますよ!
Written by 周さと子(マカオ)